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電子カルテ
 大阪大学医学部附属病院では2010年1月、ペーパレス電子カルテを目指し、病院情報システムを更新しました。本システムでは、「病棟ワークフローを支援するシステム」をキーワードに、新たに「指示システム」、「To-Doシステム」を導入しました。
 これらの成果は日本医療情報学会学術大会を中心に発表を行い、第31回 医療情報学連合大会では、優秀口演賞、研究奨励賞に選ばれるなど、高い評価を頂いております。
 それらのシステムは、データの入力支援およびデータの二次利用を可能とする「テンプレート入力システム」によって実現しています。

指示システムの電子化

 これまでの病院情報システムは、「オーダ」を中心とした機能であったと思います。病棟の運用は複雑で、「オーダ」とは別に紙の指示簿があり、このため、実施記録(服薬記録、注射の実施記録、計測記録)は紙に記録され、これを集約した熱型表も紙の記録となっていました。

 ペーパレス電子カルテを実現させるためには、熱型表を電子化する必要があります。正しい熱型表を電子的に作成するためには、実施記録が入力されなければなりません。実施記録が正しく入力できるようにするためには、指示が正しくコンピュータで登録できることが必要です。指示が電子化されることにより、正しい実施記録がコンピュータに記録され、正しい熱型表が作成されることになります。

 従来の電子カルテシステムは、指示の電子化機能が不十分で、結果的に情報の転記が発生し、記録が不正確になり混乱を招いていたと思います。当院でペーパレス電子カルテを実現するに際し、この部分にかなり注力しています。

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  1. タスクが明確となるシステム
  2.  当院では紙の指示箋では、新しい指示を下に下に追記する「リスト表示」をとっていました。この結果、指示変更履歴の把握が容易でなく、重複指示の発生、指示の実施忘れや未来指示の実施などのインシデントが起こる可能性があり、これらを防止する事が指示電子化の大きな目的となります。

     指示の表記は「リスト表示」と「カレンダー表示」があります。「リスト表示」は下に新しい指示が追記されるため、新規指示の把握は容易ですが、今やるべきタスクは明確となりません。一方、「カレンダー表示」は、新規指示の把握は困難ですが、タスクは明確となります。

     これらの特徴を生かし、指示システムでは「リスト表示」画面と「カレンダー表示」画面を作成しました。医師は「カレンダー表示」画面を確認し指示出しを行い、看護師は「リスト表示」画面で指示受けをします。指示受け状況は「リスト表示」画面で確認可能です。看護師は「カレンダー表示」画面を確認し、指示を実施します。

     このように、場面場面で二つの画面を使い分けて業務をする事が可能となった事が、指示電子化の大きな特徴となります。


  3. 「オーダ」と「指示」の切り分け
  4.  病院情報システムはオーダエントリシステムが基本となっており、ベンダーは指示システムをオーダエントリシステムからの発展と考え、「オーダ」から「指示」を作成しようとします。しかし、医師の思考過程を考えると、「服薬させたいイメージ」が頭の中にあり、これを「指示」として看護師に出す一方、これに見合う「オーダ」を入力します。つまり、「指示」から「オーダ」を作成する事になります。

     たとえば、分3:朝・昼・夕食後の薬を内服しているとして、「昼食後の薬を中止する」という簡単な指示が、オーダでは「分3:朝・昼・夕食後の薬を分2:朝・夕食後に変更する」となり、指示変更を直観的に把握する事が難しくなります。

     そこで、当院では、『「オーダ」と「指示」を切り分け、医師本来の思考である「指示」から「オーダ」を作成する』をキーワードに、指示システムを開発しました。


  5. 持続注射の指示入力
  6.  多くの注射指示は、「オーダ」ごとに開始時間や投与速度、投与量を持ち、「指示」≒「オーダ」であるため、指示の電子化は容易です。しかし、患者さんが重症化するに従って、電子指示を利用する事が難しくなると聞きます。患者重症化によって生ずる注射薬数の増加や投与ルートの複雑化は、本来コンピュータの得意とする領域です。何故でしょうか。

     我々は重症患者さんではカテコラミン類に代表される持続注射が増える事に原因があると考えました。持続注射では、速度変更などの指示変更は次の薬剤に引き継がれる必要があり、指示変更により次の薬剤の開始時間や一日に使用する薬剤数が変化します。つまり「指示」≠「オーダ」となります。

     そこで、当院では指示に持続注射という概念を持ち込み、一連の持続注射に対して指示を持つ形としました。


  7. テンプレートを用いた指示入力(安静度やバイタル、処置等)
  8.  我々が一般指示と呼んでいる安静度やバイタル、処置等の指示はフリーテキストで入力するシステムが多いようです。

     フリーテキストでの入力は、@医師が指示入力に手間がかかる上、医師ごとに異なった表現となるため、指示受けの際に問題となる事、A指示変更時に医師は旧指示を終了した上で、新指示を入力する必要がある(医師が指示終了をせず、重複指示となる)事、Bケアスケジュール(看護オーダ)と連携する際に転記が生じる事など、問題があります。

     そこで、当院では、指示テンプレートを用いて指示を入力する事としました。さらに病棟ごとに必要な指示テンプレートをまとめたセットテンプレート(入院セット、術前セットなど)を作成する事で、指示入力を省力化すると共に、指示漏れを防止しています。

     指示テンプレートを使用する事で、日々の看護ケアが必要な項目(バイタルサイン測定、観察処置)は指示受け時にケアスケジュールと連動する事が可能となります。医事算定が発生するものは、実施時に自動的に課金されます。

     このように一般指示は、指示出し、指示受け、看護オーダ、実施、課金が一連の流れで進みます。


  9. 実施から熱型表(温度板)への反映

     看護師は指示の実施を電子カルテに入力を行い、これは熱型表に反映されます。この際、実施内容、実施者が正確に記録される事が重要です。

     内服薬の実施は、その手間が実施運用の大きな問題点となります。しかし、看護師は医師の指示通りの服薬をさせているのですから、医師の指示が正確に入力されていれば、実施入力は容易なはずです。多くの電子カルテは「オーダ」を元に実施入力を行います。「オーダ」入力後に服薬が変更される事は少なくなく(「オーダ」≠「実際の服薬」)、看護師がその変更を全て入力する事は大きな手間となります。

     当院では、「指示」を元に実施入力を行います(「指示」≒「実際の服薬」)。看護師は医師の指示通りに服薬させなかった患者さんのみ服薬内容を変更し、それ以外は一括実施で入力可能です。この事により、実施者を正確に記録する事が可能となりました。

     注射薬の実施は、多くの病院で取り入れられているように、バーコードチェックで行います。注射指示では注射オーダ後、患者さんに投与するまでの指示変更を確実に看護師に伝達する事がポイントとなります。当院では清潔管理とコンピュータが水に弱い事から、電子カルテをプロセステーブルに持っていくのではなく、混注確認票を印刷して注射薬の混注を行います。

     混注確認票出力までに指示変更があった場合は混注確認票と一緒に指示変更のあった薬剤のバーコードが出力され、看護師は指示変更に気づく事が可能です。混注確認票出力後、医師が指示変更を行った際は、看護師に連絡する旨、警告が出されます。万が一、医師が看護師への報告を怠った場合でも、実施時のバーコードチェックでエラー表示がされ、看護師は指示変更に気づく事が出来ます。

     一般指示は先に述べたように、指示受け時にケアスケジュール(看護オーダ)が自動的に立てられますので、看護師は実施入力画面で観察結果を入力します。


     このように、指示システムは指示出しから熱型表への記録まで、転記作業なく、一連の流れで処理する事が可能なシステムとなっています。


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電子カルテにおけるTo-Doリストの活用
 本システムは、基幹システムであるNEC社製MegaOak-HRの標準機能をカスタマイズしたものです。

 To-Doシステムには医師用のTo-Doと看護師用のTo-Doがあります。看護師用のTo-Doは病棟ごと、受け持ち患者ごと、患者ごとに、その日行うべきタスクが一覧表示されます。勤務開始時には多くのタスクが通知されているため、看護師は勤務終了時に実施忘れのタスクがないか確認する目的で使用しています。

 医師のタスク管理は、医師の記憶力によりなされていますが、実施忘れが少なくなく、看護師や事務職員からの声かけが日常の風景となっていました。To-Doシステムにて医師の業務管理をする事は医師の業務補助だけでなく、看護師、事務職員の負担軽減にもつながります。

 To-Doシステム稼働のポイントは、医師がTo-Doを適切に処理してくれる事です。未処理のTo-Doが多量に発生すると、医師はTo-Do画面を確認しなくなり、システムの実効性はなくなります。

 そこで、医療情報部が中心となり検討を行った結果、To-Doシステムの要件として、1)適切な通知画面、2)適切な通知先、3)適切な通知項目、4)適切な通知期間、が必要と判断しました。

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  1. 適切な通知画面
  2.  医師は「自分のTo-Doを一覧で見たい」、「患者カルテを開けた際に未処理のTo-Doがないか確認したい」、「当直時など担当外患者のTo-Doを処理を可能にしたい」という要望がありました。また、看護師、事務職員からは「医師のTo-Doの進捗を知りたい」との要望がありました。

     そこで、ログイン医師の全To-Doが表示される「医師To-Do画面」と、選択した患者のTo-Doが医師をまたぎ全て表示される「患者To-Do画面」を作成しました。ログイン医師に未処理のTo-Doがある場合、カルテ左上に配したTo-Doボタンが点滅し、閲覧を促します。

     また、患者選択時に必ず表示される患者トップページに「患者To-Do画面」を配しました。これにより、看護師、事務職員が医師の業務進捗を確認する事が可能となりました。


  3. 適切な通知先
  4.  医療情報部で調査したところ、全てのTo-Doを主治医が処理する診療科、カウンターサインは指導医が処理する診療科、主治医は外来主治医としているため主治医にTo-Doを通知されても困るという診療科など、診療科ごとにTo-Doの通知先が異なる事が明らかとなりました。

     そこで、連絡先医師、カウンターサイン医、DPC担当医を自由に選択できる仕様としました。これらは主治医が既定登録され、後の変更を可能としています。


  5. 適切な通知項目
  6.  To-Do通知項目は患者入院に際し必ず処理が必要なもの、医療安全上必要なものに限定しました。医事会計に影響するものとして、DPC入力依頼、入院診療計画書作成依頼、栄養管理計画書作成依頼、医療安全に関わるものとして、研修医記録のカウンターサイン、看護師からの疑義照会、退院時要約作成依頼を通知します。

     本システムの特徴として、研修医記録のカウンターサインは経過記録だけでなく、研修医が行った処方や検査のオーダ、指示、文書作成に対しても通知されます。これらは、抗がん剤や向精神薬については全診療科に通知が行われますが、その他の項目は、診療科ごとに項目を設定する事が可能です。


  7. 適切な通知期間
  8.  入院診療計画書作成依頼、栄養管理計画書作成依頼、退院時要約作成依頼は、入院、退院といった患者イベントを元に通知を行います。研修医のカウンターサインは、研修医が経過記録の記載や、文書作成、オーダや指示により自動通知されます。疑義照会は、看護師の指示受け画面から入力が可能です。DPC病名が未入力であった場合は、DPC入力依頼が通知されます。このように、To-Doの通知はほぼ自動的に行われます。

     通知されたTo-Doは全てTo-Do画面から、簡単に処理可能です。たとえば、文書作成依頼であればTo-Do画面から該当の文書が開いた状態で文書システムを起動する事が可能です。また、カウンターサイン依頼はTo-Do画面から展開される画面で研修医記載内容、オーダ内容、指示内容を確認し、指導コメントを記載する事が可能となっています。

     本システムにより、2010年1月〜12月のカウンターサイン施行率は97.9%となりました。


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スマートテンプレート

 大阪大学医学部附属病院で使われている病院情報システムにおいて、入力されたデータを二次利用に活用するためのソリューションとして使われているのがスマートテンプレートです。これは、入力支援ツールとして階層表現を実現し、多くの病院で使われているダイナミックテンプレートの機能を拡張したものです。

 テンプレートを使って入力したデータは、自然言語に変換されたテキストデータと研究・検索に用いることのできるインデックスデータとして保存されます。スマートテンプレートでは、データピッキング機能や演算処理を行うことが可能となっており、より入力が容易となっています。



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