- タスクが明確となるシステム
当院では紙の指示箋では、新しい指示を下に下に追記する「リスト表示」をとっていました。この結果、指示変更履歴の把握が容易でなく、重複指示の発生、指示の実施忘れや未来指示の実施などのインシデントが起こる可能性があり、これらを防止する事が指示電子化の大きな目的となります。
指示の表記は「リスト表示」と「カレンダー表示」があります。「リスト表示」は下に新しい指示が追記されるため、新規指示の把握は容易ですが、今やるべきタスクは明確となりません。一方、「カレンダー表示」は、新規指示の把握は困難ですが、タスクは明確となります。
これらの特徴を生かし、指示システムでは「リスト表示」画面と「カレンダー表示」画面を作成しました。医師は「カレンダー表示」画面を確認し指示出しを行い、看護師は「リスト表示」画面で指示受けをします。指示受け状況は「リスト表示」画面で確認可能です。看護師は「カレンダー表示」画面を確認し、指示を実施します。
このように、場面場面で二つの画面を使い分けて業務をする事が可能となった事が、指示電子化の大きな特徴となります。
- 「オーダ」と「指示」の切り分け
病院情報システムはオーダエントリシステムが基本となっており、ベンダーは指示システムをオーダエントリシステムからの発展と考え、「オーダ」から「指示」を作成しようとします。しかし、医師の思考過程を考えると、「服薬させたいイメージ」が頭の中にあり、これを「指示」として看護師に出す一方、これに見合う「オーダ」を入力します。つまり、「指示」から「オーダ」を作成する事になります。
たとえば、分3:朝・昼・夕食後の薬を内服しているとして、「昼食後の薬を中止する」という簡単な指示が、オーダでは「分3:朝・昼・夕食後の薬を分2:朝・夕食後に変更する」となり、指示変更を直観的に把握する事が難しくなります。
そこで、当院では、『「オーダ」と「指示」を切り分け、医師本来の思考である「指示」から「オーダ」を作成する』をキーワードに、指示システムを開発しました。
- 持続注射の指示入力
多くの注射指示は、「オーダ」ごとに開始時間や投与速度、投与量を持ち、「指示」≒「オーダ」であるため、指示の電子化は容易です。しかし、患者さんが重症化するに従って、電子指示を利用する事が難しくなると聞きます。患者重症化によって生ずる注射薬数の増加や投与ルートの複雑化は、本来コンピュータの得意とする領域です。何故でしょうか。
我々は重症患者さんではカテコラミン類に代表される持続注射が増える事に原因があると考えました。持続注射では、速度変更などの指示変更は次の薬剤に引き継がれる必要があり、指示変更により次の薬剤の開始時間や一日に使用する薬剤数が変化します。つまり「指示」≠「オーダ」となります。
そこで、当院では指示に持続注射という概念を持ち込み、一連の持続注射に対して指示を持つ形としました。
- テンプレートを用いた指示入力(安静度やバイタル、処置等)
我々が一般指示と呼んでいる安静度やバイタル、処置等の指示はフリーテキストで入力するシステムが多いようです。
フリーテキストでの入力は、@医師が指示入力に手間がかかる上、医師ごとに異なった表現となるため、指示受けの際に問題となる事、A指示変更時に医師は旧指示を終了した上で、新指示を入力する必要がある(医師が指示終了をせず、重複指示となる)事、Bケアスケジュール(看護オーダ)と連携する際に転記が生じる事など、問題があります。
そこで、当院では、指示テンプレートを用いて指示を入力する事としました。さらに病棟ごとに必要な指示テンプレートをまとめたセットテンプレート(入院セット、術前セットなど)を作成する事で、指示入力を省力化すると共に、指示漏れを防止しています。
指示テンプレートを使用する事で、日々の看護ケアが必要な項目(バイタルサイン測定、観察処置)は指示受け時にケアスケジュールと連動する事が可能となります。医事算定が発生するものは、実施時に自動的に課金されます。
このように一般指示は、指示出し、指示受け、看護オーダ、実施、課金が一連の流れで進みます。
- 実施から熱型表(温度板)への反映
看護師は指示の実施を電子カルテに入力を行い、これは熱型表に反映されます。この際、実施内容、実施者が正確に記録される事が重要です。
内服薬の実施は、その手間が実施運用の大きな問題点となります。しかし、看護師は医師の指示通りの服薬をさせているのですから、医師の指示が正確に入力されていれば、実施入力は容易なはずです。多くの電子カルテは「オーダ」を元に実施入力を行います。「オーダ」入力後に服薬が変更される事は少なくなく(「オーダ」≠「実際の服薬」)、看護師がその変更を全て入力する事は大きな手間となります。
当院では、「指示」を元に実施入力を行います(「指示」≒「実際の服薬」)。看護師は医師の指示通りに服薬させなかった患者さんのみ服薬内容を変更し、それ以外は一括実施で入力可能です。この事により、実施者を正確に記録する事が可能となりました。
注射薬の実施は、多くの病院で取り入れられているように、バーコードチェックで行います。注射指示では注射オーダ後、患者さんに投与するまでの指示変更を確実に看護師に伝達する事がポイントとなります。当院では清潔管理とコンピュータが水に弱い事から、電子カルテをプロセステーブルに持っていくのではなく、混注確認票を印刷して注射薬の混注を行います。
混注確認票出力までに指示変更があった場合は混注確認票と一緒に指示変更のあった薬剤のバーコードが出力され、看護師は指示変更に気づく事が可能です。混注確認票出力後、医師が指示変更を行った際は、看護師に連絡する旨、警告が出されます。万が一、医師が看護師への報告を怠った場合でも、実施時のバーコードチェックでエラー表示がされ、看護師は指示変更に気づく事が出来ます。
一般指示は先に述べたように、指示受け時にケアスケジュール(看護オーダ)が自動的に立てられますので、看護師は実施入力画面で観察結果を入力します。
このように、指示システムは指示出しから熱型表への記録まで、転記作業なく、一連の流れで処理する事が可能なシステムとなっています。