Osaka University Hospital Department of Medical Information Science (okada@hp-info.med.osaka-u.ac.jp)1
Osaka National Hospital2
Keywords: Prescription, disease, selection, data base
1.はじめに
阪大病院では2000種以上の薬剤が治療に使用されている。しかし、高血圧や狭心症など、個別の疾患に対してどのような薬剤が頻用されているかは明らかではない。また、合併症などに対して投与されている薬剤の実態を把握することは難しい。また、医学の進歩に伴って、薬物療法も変化するが、それに応じた治療を行っているのかどうかを具体的に把握することは難しい。
2.方法
我々はAという疾患に治療の目的で投与されている薬剤を検索する方法を考案した。治療薬は、治療の対象となる疾患群で投与頻度が高いことが予想される。また、当該薬剤を投与されている患者群では、その疾患の頻度が高いことが予想される。
すなわち、疾患群と非疾患群で薬剤の投与頻度を比較し、疾患群で投与頻度が高い薬剤を選択した上で、その薬剤の投与されている患者の持つ疾病を分析すれば、その疾患に特異的に投与されている薬剤、それは治療薬である可能性が高い、を抽出できるのではないかと考えた。また、抽出の過程はできるだけ機械的なものとし、将来的には自動化が可能なものをめざした。
1996年4月に阪大病院に来院した患者19190人を対象とし、この期間に有効であった病名とこの期間中に処方された薬剤名を対象データとして解析した。対象疾患としては、高血圧、糖尿病、高脂血症、狭心症を選択した。
対象となるデータはOracle7を用いてワークステーション上に構築された診療データベースに登録されているものを用いた。端末にはパーソナルコンピュータを用い、データベースへの問い合わせにはKeySQLを用い、その後の解析にはマイクロソフト社のアクセス95およびエクセル95を用いた。
まず、各疾患患者に投与されている薬剤を抽出した。ついで、対象とした疾患患者群と、10才ごとの年齢、性別を一致させたその疾患を持たない患者群(非疾患患者群)を選択し、その患者に対して投与されている薬剤を抽出した。
使用頻度の差を見るために疾患群(疾患(+))、比疾患群(疾患(-))で各薬剤の使用頻度を算出した。使用頻度に有意差があるかどうかの検定はカイ2乗検定で行った。ついで、カイ2乗検定で有意差ありと判断された薬剤のうち、疾患(-)群で投与された件数と疾患(+)群および疾患(-)群双方で投与された件数の比pを算出し、pがある定数以下の場合を治療薬として投与されている薬剤とみなすことにした。前記の検定での危険度5%と1%およびさまざまなpの値で薬剤を選択し、治療薬として認められているものがどれだけ選択されたかを指標として、選択に用いる危険度およびpを決定した。
続いて、このようにして選択された薬剤を投与されている患者群の病名を抽出し、その出現頻度順に並べた場合に当該疾患が上位に来る薬剤を最終的にその疾患の治療に頻用されている薬剤と判定した。
3.結果
高血圧患者に投与された薬剤のうち使用頻度がもっとも高いものは胃粘膜保護剤であり、その他にも降圧薬以外の薬剤が多数投与されていることがわかった。なお、降圧剤に絞って、高血圧患者での使用頻度を見ると、Ca拮抗薬の使用頻度がもっとも多いなど、本邦で報告されている通りの傾向が見られた。他の3疾患でも同様に治療薬以外の薬剤が多数使用されていることがわかった。
高血圧において、カイ2乗検定で疾患群、比疾患群で有意差ありと判定された薬剤数とその中の治療薬の数、およびpの値を変化させて集計した結果を表1に示す。カイ2乗検定で危険度5%で選択した場合、77薬剤が選択され、うち治療薬は35剤であった。さらに、p=0.3とした場合、42薬剤が選択され、うち治療薬は34剤となった。高血圧の治療薬として認められている薬剤は当院の場合50剤が使用されているが、ここで選択されなかった薬剤は、投与されている患者数が10人未満と、使用頻度が少ないものがほとんどであった。
そこで、できるだけ広く薬剤を選択するためにも、危険度は5%、p=0.3を基準値として採用することにした。この数値を、糖尿病に当てはめた場合は、49剤が選択され、うち治療薬は13剤、高脂血症の場合は30剤が選択され、うち治療薬は7剤、狭心症の場合は63薬剤が選択され、うち治療薬は17剤であった。
ついで、このようにして選択された薬剤の各々について、その薬剤を投与されている患者をすべて抽出し、どのような病名で通院しているかを集計した。病名の出現頻度のうち上位1〜3位に、注目している疾患が含まれている場合を選択していった。ただし、病名のうち目の調節障害は、眼科受診患者のほぼ全員に付与されているため、今回の集計からは除いた。
注目している疾患の頻度が一番多かった薬剤のみを選択した場合は、高血圧では36剤が選択され、うち降圧薬が34剤と高率に治療薬が選択された。糖尿病では15剤が選択され、うち11剤が治療薬、高脂血症では6剤が選択され6剤とも治療薬、狭心症では11剤が選択され、うち9剤が治療薬と、いずれの場合も高率に治療薬が選択された。
4.考察
診療支援データベースを用いることでホストに負担をかけずに柔軟な検索が可能であること、パソコン上のアプリケーションを利用することで、専門的な知識をほとんど持たずとも、検索が可能である点は、今後の応用を考える点で重要となろう。また、マクロプログラムを利用することで、定式化した部分については、自動運転が可能である。病名を入力することで、同様の検索集計を自動的に行うシステムを構築することは比較的容易であると考えられる。
高血圧で治療薬以外で選択された薬剤はシクロスポリンとベンズブロマロンである。
シクロスポリンは副作用として血圧上昇の記載があり、また移植術後などでは副作用が出現しても投与を中止できないため、降圧薬と併用されることになり、抽出されたものと考えられる。
ベンズブロマロンは高尿酸血症と高血圧が合併しやすいこと、高尿酸血症と痛風に対象疾患が分かれて登録されていることが抽出された原因と考えられる。
糖尿病では、プロペントフィリン(脳代謝改善薬)、カリジノゲナーゼ(末梢血管拡張)ポリエンフォスファチジルコリン(脂肪肝、高脂血症)ジメチルポリシロキサン(消化器内ガス除去)が治療薬以外で選択された。前2者は糖尿病に合併する脳循環障害が多いこと、3者目は糖尿病に高脂血症が合併するケースが多いことを示すと推測される。4番目の薬剤はアルファグルコシダーゼ阻害薬の副作用を軽減する目的で併用されている可能性がある。
狭心症の場合は、アスピリン、ワルファリンが治療薬以外で選択されたが、これらは血栓の予防のために投与されていると考えられる。
いずれの疾患においても、抽出に漏れた治療薬は、いずれも対象患者群の1%程度にしか投与されていない、使用頻度の少ない薬剤であった。
以上のようにこの手法を用いて選択された薬剤は、治療薬を高率に含むばかりか、治療薬以外の薬剤も、合併症に対する投与、副作用の軽減目的での投与、あるいはその薬剤の副作用として疾患が生じる場合など、いずれも合理的な理由が考えられた。
5.まとめ
1.阪大病院での高血圧等の疾患に対する薬剤別の使用頻度を調査したところ、その内容は従来本邦で報告されているものと大差なく、常識的な投与内容であると考えられる。
2.診療支援データベースを用いて、機械的に特定の疾患に特異的に投与されている薬剤を抽出する可能性が示唆された。この手法は合併症や副作用の検出に有用である可能性が高い。