S-6-5第17回医療情報学連合大会 17th JCMI(NOV,.1997)

現状の病院情報システムから診療録の完全電子化への移行の方法と問題点

松村 泰志 , 武田 裕
大阪大学医学部附属病院医療情報部

Methods of shifting the present system to the total electronic patient record

Yasushi Matsumura , Hiroshi Takeda

Department of Medical Information Science, Osaka University Hospital (matumura@hp-info.med.osaka-u.ac.jp )

Abstract:We implemented a total hospital information system in 1993, in which the patient data of basic information, diagnosis, clinical laboratory test results, reports of radiology test are dealt with. It support the efficient access to the patient data and enable to analyze them. In the next step, we plant to widen the electronification of patient data but we estimate that it is impossible to abandon the paper based patient record. Thus thinking about the proper share of the role between paper based record and computer system is important. Further, the system is expected to present the patient data totally for easy comprehension of the patient history and have to deal with multiple types of data, thus a flexible system is required. We are now developing the system fulfill these conditions.

Keywords: electronic patient record, hospital information system, patient record chart



1.はじめに

 医療の本質は、情報処理そのものであり、これにコンピュータシステムを利用しようとする考え方は、ごく自然なものと思われる。しかし、日本における病院情報システムの発展は、こうした医療の本質部分には触れずに、むしろ間接的な業務の省力化、迅速化を目的として開発されてきた。電子カルテへの流れは、病院情報システムが、従来の病院合理化を目的としたシステムから、患者の診療情報を扱う医療の直接的業務に関わりを持つシステムへとステップアップすることを意味する。
 大阪大学医学部附属病院では、1993年9月に、病院移転をきっかけとして比較的広範囲の病院情報システムを導入した。また、この機会に各科カルテ方式から、1患者1カルテ方式への変換を行った。この2つの大きな変革により、コンピュータが、診療の中で日常的に利用されるようになり、また、診療録が、病院全体で統一的に管理されるものであるという意識が浸透した。予算及び当時の技術レベルの制約のために、診療情報の電子化は、限られた範囲に留まったが、この経験を通し、診療情報が電子化されることの意義が、具体的に理解されるようになった。こうした職員の意識の変革は、診療録の電子化の基礎を築く上で重要であると考えている。
 本稿では、現システムでの診療情報の電子化について、到達し得た点と問題点を示した上で、次に導入するべきシステムについて、我々の見解を述べたい。

2.現システムにおける診療情報の電子化

 現システムにおける診療情報の電子化は、オーダリングシステムに連携したレポートティングシステムと、患者基本情報及び病名の登録システムにより実現している。また、登録データは、解析専用のデータベースに蓄積され2次利用されている。
 患者基本情報として、患者番号、患者氏名、生年月日などの管理基本情報に加え、身長、体重、血液型、障害、妊娠、感染、アレルギーの有無などの診療上の基本情報がある。前者は、医事課職員により、後者は、医師により登録される。
 病名は、重要度等の情報と伴に医師により直接登録されている。レセプト、入院予約票、カーデックス等に印字され、また、オーダと伴に部門システムに伝達され、患者の理解に役立っている。データ解析を可能とするために、フリーテキスト入力を許さず、全て病名マスターから選択する方式を採用し、ICD-10に準拠した十分充実した病名マスターの作成に努力した。蓄積されたデータは、研究等にも利用されている。
 臨床検査部で受付られている検体検査の、ほぼ全ての検査結果が電子化され、端末から照会可能とした。この中には、微生物検査のレポートも含まれている。
 放射線部で実施され、放射線部の医師がレポートを作成している検査については、全てレポートは電子化されている。更に、一部の端末で、該当する画像を表示するシステム(PACS)を試験的に稼働させている。
 現システムでは、患者データは、全てホストコンピュータで管理されているが、この内、病歴管理に重要な情報を抽出して、データ解析専用のワークステーション(診療データベース)に移植している。このシステムにより、ある条件に適合した患者の検索等が容易に行え、臨床研究等の支援に効力を発揮している。
 このシステムの導入により、次の効果が認められた。1)紙の検査レポートの搬送業務が不要となった。2)カルテが手元に無くても検査結果や診断名が照会でき、病名が幾つかの帳票に出力され、必要な患者情報へのアクセスが早くなった。3)検査レポートの検索が、紙のレポートを探すよりも基本的に便利となった。特に、検体検査結果が時系列的に表示される機能は、病状の変化を理解しやすく好評であった。4)従来不可能であった患者の検索が可能となった。
 現システムの問題点として、以下のものがある。1)病棟では、回診等でデータが必要になるため、検査データは、プリンター出力されてカルテに挟まれるか、転記される例が多い。病棟医師を支援する為には、プリント出力機能を充実させる必要がある。2)レポートを、階層に従って1つ1つ開く仕組みには、最新のレポートを照会する場合には良いが、目的とするデータの存在を探すような場合に、不便さを訴えるユーザが多い。3)それぞれのサブシステムが独立しており、診療データを統合的に表示する機能がない。このように、今後、電子化された診療データの種類が多くなるにつれ、これらをどのように表示するのかは重要であり、電子カルテシステムの良否を決める大きなポイントになると思われる。一方、入力の負担について、外来病棟の医師、放射線レポートの入力を担当する医師から、問題の指摘は少ない。

3.次期システムの診療録電子化の範囲

 次期システムで、診療データの電子化をどこまで進めるかは重大な課題である。診療録の電子保管が法的に認められるようになったとしても、大学病院で、紙のカルテを全面的に廃止するために解決すべき問題は非常に多くある。少なくとも大学病院においては、これからしばらくの間は、紙のカルテと電子カルテとが共存することを前提とするのが、現実的な策と考える。この場合、紙のカルテと電子カルテとの間の良好な役割分担を設定することが重要である。また、こうした運用方法をとる場合でも、システム構築に費やすコストに見合う十分なメリットがなければならない。
 紙への記録の長所は、容易さ、柔軟性、網羅性にある。一方、電子化した記録の長所は、編集機能、データの2次利用が可能となることである。こうした両者の特性を考えた上で、我々は、次の時代の紙のカルテ、電子カルテの役割分担を次のように考えている。
 日常診療のメモ的な記録は、従来通り紙のカルテに記録する。但し、症状、身体所見等の情報の中で、重要な意味を持つものについては、コンピュータへの登録を可能とする。検査データは、可能な限り電子化する。また、画像等の一次情報が、検査レポートとリンクして照会可能とする。診断名を含むプロブレムは、電子化し、プロブレムを軸としたデータ照会を可能とする。これらの患者データは、集約して紙に打ち出すことを可能とし、必要に応じてカルテに挟み込む。初診時、入院時の現病歴などの情報は、基本的には、紙に記録する。但し、コンピュータ入力も可能とし、入力した場合は、必ず紙に打ち出して、カルテに保管する運用とする。退院時サマリー、術前検討会等の為の病歴サマリーは、電子化させる。これらは、現在でも多くがワープロ入力されており、これを電子化し、データベース化することは、運用的にも無理がなく、メリットも大きい。院内紹介状は、電子化させ、院内職員のコミュニケーションを支援するシステムを構築し、その中で扱う。院外紹介状は、その作成をコンピュータが支援し、プリントアウトしたものを、従来通り、紹介状として使用する。
 診療録の電子化を進めると同時に、オーダリングシステムも新しいファイズに進まなければならない。従来のオーダリングシステムは、処方箋や検査用紙の役割を担うものであったが、電子カルテシステムの中では、オーダデータは、医師の行った行為の記録として扱われる。また、前向き臨床試験等で、予め計画された一連のオーダが、簡単な操作で登録できる機能、オーダ歴が他の診療記録と統合的に照会できる機能等が必要と思われる。こうした機能を合わせることにより、電子カルテに、単に記録するための道具としてだけでなく、医師をある方向へ誘導する機能を持たせることになる。

4.次期システムの技術的条件

 上記の範囲で診療録の電子化を行い、かつ、十分なメリットを引き出すためには、以下の技術的条件が必要と考える。
 ユーザの要求に応じた多彩な病歴データの表示を可能とするためには、従来のオーダデータやレポートデータを含め全データが統一的な構造を持つ必要がある。また、蓄積したデータを2次利用するためには、narrativeなデータではなく、構造化されたデータである方が有利である。これを実現する為には、テンプレート方式のデータ登録が適当である。しかし、院内の全種類の検査レポート、及び症状、身体所見で必要なものについてテンプレート入力を前提とした場合、その入力テンプレートの種類は、非常に多くなると予想される。従来の方式のように、これら入力テンプレートそれぞれに対しプログラムを作成し、データベースファイルを設定する仕組みであれば、これだけ多くの多様性を、現実の運用の中で吸収できない恐れがある。これからの技術的な課題は、このような多様性に対応できる柔軟なシステムの構築にある。
 我々は、こうした問題を解決可能とするための入力テンプレートの仕組みについて、日本電気医療システム事業部と共同で研究開発している。このシステムでは、テンプレート内に階層構造を持たせることができ、登録されたデータに応じ、みかけのテンプレートが変化する構造を持っている。また、個々のテンプレートの構造を規定するデータ部を、プログラム部から完全に切り放し、マスターメンテナンスシステムにより、ユーザ自身が自分のイメージに従って簡単にテンプレートを作成することを可能とした。また、個々のテンプレートの構造によらず、登録データの構造が統一されているために、テンプレート毎にデータベースファイルを定義する必要はない。

5.診療録電子化への手順

 次期システムでは、検査レポート、各種サマリーの電子化を中心に取り組み、この中で、前向き臨床試験などの支援を可能としたいと考えている。電子カルテの最終的なイメージを決め、システムとしては、全面電子化を可能とする機能を持たせながら、実際には、ユーザの要求に応じ、運用的にむりがなく、電子化のメリットが大きい部分から、順次電子化の範囲を広げていく方式を取りたいと考えている

図表


参考文献



Microsoft Access TO HTML Converter.Medical Informatics,Shimane medical UNIV.