2-H-2-5第17回医療情報学連合大会 17th JCMI(NOV,.1997)

電子カルテにおける問題指向型のデータ登録・照会機能

松村 泰志 , 武田 裕 , 岡田 武夫 , 桑田 成規 , 羽澄 典宏 , 中沢 宏章 , 井上 通敏
大阪大学医学部附属病院医療情報部 , NEC医療システム事業部 , 国立大阪病院

A function of problem oriented data presentation and its mechanism in the electronic patient record system

Yasushi Matsumura , Hiroshi Takeda , Takeo Okada , Shigeki Kuwata , Michihiro Hazumi , Hiroaki Nakazawa , Michitoshi Inoue

Department of Medical Information Science, Osaka University Hospital(matumura@hp-info.med.osaka-u.ac.jp ) , Medical System Division,NEC Corporation , Osaka National Hospital

Abstract:We have developed the electronic patient record system, in which structured data can be entered using template base data entry system. To present the patient data by problem oriented manner, problems are linked to other data elements, I.e., diagnosis, patient status data as bases of the problem, those as monitoring item, treatment, summary, and problems themselves. If the problem is succeeded to other when the patient status changes, then these links will be also inherited. This system present these data according to the problem in the problem list window, the problem details presenting window in which bases and treatment are described, problem summary window, and flow sheet whose items are controlled by the problem. Through these presentation, patient history may get more easy to comprehend.

Keywords: electronic patient record, problem oriented system, structured data entry, flow sheet



1.はじめに

 患者の所見データを整理し、幾つかのproblemにまとめあげ、これをいかに解決するかは、医師としての技量が最も反映される作業である。Weedは、問題志向型のカルテ記載方法により、医師の思考過程を記録に残す方法を提唱した。しかし、現状のカルテでは、医師の思考過程が明確な形で表現されにくく、病歴の把握を難しくしている。我々は、こうした紙のカルテの持つ欠点を、電子カルテで解決することを目的として電子カルテの開発を試みている。これまで、こうしたニーズを実現するためには、要素と要素間の関係の記述により全体を構成する方式が必要であることを主張し1)、その実現のために、テンプレート方式のデータ登録システムを開発し、報告してきた2)。このシステムにより、患者の所見が、構造化されたデータとして登録されること、その結果、同種の要素が時間軸でリンクされ、登録データをflow sheetの形に表現可能になることを示した。今回、problemを軸として、異なる要素を意味的に関連づけし、照会する方法について報告する。

2.fact dataのデータ構造とflow sheetでの表現

 症状、身体所見、検査所見等の患者の状態(fact)の記述は、まず、記述の最小単位(分離して記述されることがまれである単位)を定義し、その単位毎に内容を記述する。この記述の最小単位を項目、その内容を表す個々の詳細データをアトムと呼ぶことにする。fact dataは、flow sheetで照会することができる。flow sheetは、縦軸に項目を、横軸に日時のマトリックスのセルに代表値を表示する表現である。この縦軸の項目に、アトム項目を表示することもできる。

3.problemと関連するデータ要素

 本システムでは、problemに以下のデータ要素を関連させた。即ち、1)病名、2)根拠としてのfact data、3)治療、4)モニターとしてのfact項目、5)problem毎のサマリー、6)problem間の意味的関連、7)problem間の時間的関連、である。

3.1.problemの登録と病名との関連

 患者のproblemは病名と一致することが多いが、病名としては適当でないものも含まれてくる。また、病名は、レセプトに表示するため、ある程度の形式が整っている必要がある。一方、problemの記述には、かなり自由度が必要である。そこで、病名とproblemは、別のものとし、登録した病名をproblemにコピーし、修正できる仕組みを持たせた。これにより、病名とproblemが関連づけられ、かつproblemの登録時間が短縮される。但し、病名、problemの一方のみを登録することも許す。problemの登録の際に、重要度を登録し、problem listの表示の順番を規定する。

3.2.problemの根拠としてのfact dataとの関連

 本システムでは、problemに対し、その根拠となるデータをリンクさせることを可能とした(図1)。また、problemが診断名であった場合にその診断に対し否定的な所見も登録できるようにした。根拠としてのデータは、日時を特定した項目、またはアトムである。problemを指定した上で、関連する項目あるいはアトムをflow sheetから選択する。

3.3.problemの治療方法との関連

 あるプロブレムに対しどのような治療を行ったかを記録できるようにした。治療の対応は、項目として対応させることも(内服薬の場合)、日を特定した項目(手術等)と対応させることもできる。

3.4.problemのモニター項目の指定

 あるproblemが時間を追ってどのように変化していくかを観察する必要がある。例えば、高血圧のproblemを持つ患者は、その診断根拠は、ある時点の高い血圧値であるが、降圧剤で治療した場合、正常化した血圧もモニターする必要がある。そこで、problemに対しモニター項目が指定できるようにした。ここでの関連は、時間を特定しないfact項目或いはアトム項目である。

3.5.problemのサマリー

 放射線オーダや生理機能オーダ等の検査オーダをする際、検査医に対し患者の病歴を伝える必要がある。本システムでは、それぞれのproblemに対しサマリーが登録でき、検査オーダをする際、どのproblemに対しオーダをするのかを指定すると、自動的にこのサマリーがオーダに添付される仕組みとする予定である。これにより、この検査がモニター項目としてproblemとリンクされることにもなる。

3.6.problem間の意味的関連

 problemの間にも、2つのproblemが原因結果の関係を持つ場合がある。また、複数のproblemをグループ化して一つのproblemで代表して呼称すると理解しやすくなる場合がある。グループ化した場合、モニター項目が自動的に合成される。

3.7.problemの継承

 problemは、新たな所見が得られることにより、また治療によって内容が変遷するのが常である。こうしたproblemが変遷する過程で、他の要素との関係が、基本的に継承される必要がある。problemを継承する場合、継承元のproblemを呼び出し、これを修正するイメージで登録する。システムは、problem Noを更新し、名称と他の要素との関係を複写する。名称の変更、または、一部の関係の変更が登録され、元のproblemと継承関係にあることが記録される。

4.問題思考型データ表現

 上記のようにproblemは、いくつかのデータ要素と関連を持つが、この関連を4つのウィンドウの中で表現させた。

4.1.problem list

problem同士の意味的関係は、problem list内で表現される。
例)#弁膜症
  ・僧帽弁閉鎖不全症
  ・大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症
  ・心房細動
  ・心不全(NIHA2度)
  #糖尿病性網膜症
  <糖尿病
  #本態性高血圧症

4.2.problemの詳細データ

 problemを詳細に表現するために、肯定的根拠、否定的根拠、治療内容、サマリー(最新)を表示する。その表現の変遷を過去に遡って見ることができる。
例)労作性狭心症(平成8年4月1日)
  * 胸痛(平成8年3月1日)
    発症様式:発作性、発作の誘因:労作時
  * エルゴ負荷心電図(平成8年3月12日)
    V4、V5、V6でST低下、胸痛(+)
  X 心筋シンチグラム(平成8年3月23日)
    perfusion defect(-)
  >ニトロールR
  >アダラートL
 
  平成8年2月より、労作時胸痛出現。
  エルゴ負荷心電図で、ST低下

4.3.problemのサマリー

 一つのproblemに対し、記述したサマリーをこのウィンドウで見ることができる。

4.4.flow sheet

 problemを指定すると、flow sheetの項目は、関連するモニター項目と、治療項目だけに絞られて表示される仕組みを持つ。

5.考察

 構造化されたデータをproblemを軸として、どのデータと意味的に関連づけるか、これらの関連の登録方法、更に、problemを軸とした問題指向型のデータ照会の方法について報告した。本システムでは、flow sheetが、problem毎に照会でき、患者の病歴の全体像が把握しやすくなること、problem毎に、診断根拠や治療内容などの情報が表示されることにより、患者の問題点が具体的に理解できること、problemの変遷の履歴を見るこにより、担当医師の思考過程の履歴を知ることができること等の効果が期待される。今後、実際の患者の記録を本システムに登録し、評価していく予定である。

図表

図1、problemとfact dataとのリンクの方法


参考文献

1 松村泰志他:診療録構成要素と要素間関連の記述による電子カルテの基本設計:電子カルテシンポジウム論文集、11-14,1996.
2 松村泰志他:電子カルテシステムにおける構造化されたデータ登録のための仕組み:医療情報学、17(3):193-201,1997.

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