電子カルテにおける動的テンプレートの開発とその意義

松村泰志 、武田裕 、岡田武夫 、桑田成規 、羽澄典宏 、中沢宏章 、井上通敏
大阪大学医学部医療情報部1、NEC医療システム事業部2、国立大阪病院3

Development of the dynamic template in electroic patient record

Yasushi Matsumura , Hiroshi Takeda, Takeo Okada, Shigeki Kuwata, Norihiro Hazumi, Hiroaki Nakazawa, Michitoshi Inoue

Department of Medical Information Sience in Osaka University Medical School1
NEC corporation2
Osaka National Hospital3

Abstract: For a successful implementation of electronic patient record, the system for inputting data is required in which data can be entered as quickly as being written down in paper based record chart. Furthermore, the entered data should be organized for rearrangement or being analyzed. We developed the system named "dynamic template", in which user enter the data by only successive selections from the items the system presents. To avoid presenting meaningless items to be selected, the system presents a next item according to the selected data before. But it presents all the next items before the next diverging point to enable to input data in full or for short at a time. We developed the template for cardiovascular field as an example, which enable to input data quickly and organize the entered data.

Keywords: electronic patient record, dynamic template,



1. はじめに

 電子カルテの実現のためには、現在のペンで紙に記載するより短時間で、コンピュータに必要なデータが入力できる仕組みが必要である。また、登録されたデータを編集したり、データ処理に利用するためには、データが構造化されて登録されることが望ましい。我々は、システムが表示した選択枝から該当データを選択することを基本とした入力方式を採用し、できるだけ少ない項目数で、ユーザが意図した内容が入力できる仕組みの開発を試みた。

2. 方法

2-1. システム環境

 PC9801シリーズのパーソナルコンピュータを使用し、Windws95をOSとし、Visual Basic4.0とMicrosoft Excelをシステム開発に利用した。

2-2. システム概要

 このシステムは、以下の機能を備えている。
1)無意味な入力項目を表示しない。
2)詳細な情報、簡略化した情報入力が同時に可能。
3)前回入力内容を参照し、変更点だけを入力。
4)繰り返し入力が簡略化できる。
5)頻度の高いパターンの入力が簡略化できる。
6)選択枝は見やすく、選択しやすい。
7)登録データの修正ができる。
 ある項目の選択枝について、更に詳細な内容を入力する場合がある(例:痛みの発症様式に対し発作性と入力された場合の、発作の内容に関する項目)。この場合、予め、全ての入力項目を表示させると、ほとんどが入力されない無駄な入力項目で画面が埋められることになる。これを避けるためには、選択された値によって、次の入力項目が変化する仕組みが必要である。一方、入力項目が全て一つづつ表示されるのであれば、簡略化して情報を入力したい場合でも、詳細な情報入力の場合と同じステップを踏まなければならない。詳細な情報の入力と、簡略化した情報の入力を同時に可能とするためには、次の分岐点までの入力項目を同時に表示させることが必要である。我々は、このような入力の仕組みのことを動的(ダイナミック)テンプレートと名付けた。
 再診時、前回の入力内容をベースに記録することは、単に、入力を簡略化するだけでなく、臨床的に重要である。前回のデータのうち必要な部分をコピーし、更に、新たに追加するデータ項目(前回との比較等)を表示し、今回のデータ入力を促す。
 更に、複数選択可の選択枝に対しこれらそれぞれを修飾するデータを入力する際、同じ値を入力する場合は、簡略的な入力が望ましい(例:浮腫の部位に対し、顔面、右下腿、左下腿が選択され、それぞれに浮腫の程度が軽度と入力する場合)。また、身体所見の入力では、正常のパターンの入力頻度が高い(例:心音;I音、II音純、心雑音無し)。正常パターンの入力が簡略化できると便利である。
 選択枝は、見やすく、かつ誰もが理解しやすく表記されるべきである。これを支援する為に、図から選択することも可能とする。例えば、体の場所を選択する場合は、図から選択するほうが、直感的で良い。
 データを入力する場合、後から修正を加える事が屡々ある。このシステムでは、分岐項目で変更を加えると、これを修飾する入力項目のデータを消去して、新たなデータの入力を可能とすることが必要である。

2-3. 登録データの構造

 こうして、ダイナミックテンプレートで登録されたデータは、以下のデータ構造を持つ。
 患者の個々の症状(例:頭痛、胸痛、腹痛)、個々の身体所見(例:血圧、脈拍、心音)を一つの単位として扱い、その記述単位のタイトル名を項目と呼ぶことにする。項目は、それを表現する詳細な記述要素が分離して扱われることが希であるように設定する。例えば、血圧の場合、収縮期血圧、拡張期血圧があるが、これらは、分離して記述されることはまれであるので、血圧を1つの項目とする。
 項目の詳細な記述は、その内容を説明する為の項目と値により記述する。これをそれぞれアトム名、アトム値と呼ぶことにする。アトムは、並列的な関係だけでなく、あるアトムが他のアトムを修飾する関係でも表現できるようにする。
 これらのデータをリレーショナルデータベースに登録することを想定した場合、そのフィールド項目は、患者ID、登録日時、登録時間枝番、項目コード、項目名、項目内アトムシリアル番号、親項目内アトムシリアル番号、アトム名コード、アトム名、アトム値コード、アトム値である。ここで、項目内アトムシリアル番号は、各項目内のアトム名に対するシリアル番号であり、表示順を規定する。親項目内アトムシリアル番号により項目内のアトム間の親子関係が示されている。
 この表現で、ある患者の胸痛の表現はおおよそ以下のようになる。カッコ内は、(項目内アトムシリアル番号、親項目内アトムシリアル番号、アトム名、アトム値)を表している。
胸痛:(1,0,発症日,平成8年6月頃),(2,0,痛む部位,左前胸部),(3,0,痛みの程度,中等度),(4,0,痛みの性状,重圧感),(5,0,発症様式,発作性),(6,5,発作の誘発因子,労作時),(7,6,労作の程度,階段の登昇),(8,5,発作の頻発時間,不定),(9,5,発作の持続時間,数分)(10,5,発作の頻度,週に1〜2回),(11,5,現在までの経過,頻度増加傾向)

2-4. 登録データの表示

 登録データを後で照会する場合、このようなデータ表示では、内容は分かるが、見やすいとは言いがたい。そこで、テンプレートから入力されたデータは、自然言語に近い形に変換してprogress noteに表示する。上記の例では、以下のように表現される。
「平成8年6月頃より、左前胸部に中等度の胸痛あり(重圧感)。発症は発作性。発作の出現は労作時(階段の登昇。頻発時間は不定。持続時間は数分。頻度は1〜2回/週。発症から頻度増加傾向。」

2-5. テンプレートマスター

 テンプレートの内容、自然言語への変換方法については、ユーザが試行錯誤して作る過程が必要である。その為には、テンプレートの流れを制御するデータを登録するマスターと、これをベースに実際のテンプレートを作るプログラムを分離する必要がある。マスターには、テンプレートを構成するためのデータと、自然言語に変換するルールが登録されている。

3. 結果・考察

 本入力システムにより、循環器専門外来での入力テンプレートを試作した。このシステムを利用することにより迅速な情報入力が可能となった。入力されたデータは構造化され、同時に自然言語にも変換され、分かりやすく表示された。テンプレートのデザインの良否が使いやすさを規定す重要な要素であり、ユーザが自由に設計できる仕組みは必須と考えられた。
 本システムは、電子カルテの有力な入力方法の一つとなると考えられる。




図表

図1、入力テンプレート例
図2、自然言語への変換例

参考文献




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