総合病院におけるアナログ画像情報処理のニーズ分析とアナログPACSの基本設計

武田裕 、松村泰志、桑田成規、岡田武夫
大阪大学医学部附属病院医療情報部

An analysis for analog image data processing in a university hospital and development of analog PACS

Hiroshi Takeda, Yasushi Matumura, Shigeki Kuwata, Takeo Okada

Department of Medical Information Science, Osaka University Hospital

Abstract: Although digital image processing is far advanced in medical care, technology for analog image archiving and communication is not yet established. In this study, physicians' needs for analog PACS were analyzed. As the results, the amount of 6.5 GB still image data were estimated to be generated in a day in this university hospital and much more dynamic image would be also acquired. The results fascilitated to develop an APACS (analog PACS) and fundament concepts for the system which features client/server system, multi-modal communication and expert system for image data processing, are discussed in this paper.

Keywords: PACS, analog image data, client server system, expert system



1.はじめに

 病院など医療現場では、放射線画像を中心にディジタル画像処理は飛躍的に進歩した。しかし、診察室や生理機能検査室などで得られるアナログ画像についてはその処理技術の開発は遅れており、病院情報システムにおける診療情報の収集・統合において大きな障害となると予想された。本研究では、診療科にアンケート調査を行い、病院内におけるアナログ画像の種類・発生頻度・発生量・保管方式などを解析し、このニーズ分析を踏まえ、アナログ画像処理システム(アナログPACS)基本設計を行ったので報告する。

 

2.院内アナログ画像に関する現状分析

 平成7年7月に各科外来・病棟医長、画像検査関連の診療部門に対しアンケート調査を行った。アンケートの内容は、診療現場における画像名称、画像の性質、発生場所、発生量、保管方法、保管場所などであった。
 その結果、21部門より回答を得た(回答率91% )。画像の種類を性質別に分類すると以下の通りである;括弧内は一日当たり発生量(一部推定量を含む)
 白黒2値静止画;脳波(20例)、自動視野検査(10枚)、複像検査(5)、アムスラ検査(5枚)、尿流量計(15)、骨塩定量検査(40)心電図(検査部を除く)(80)、心理検査(50)
  推定データ量=512x512x(20x10+10+5+15+40+80+50 ) = 約13.1 MB/日
  (注;脳波は症例あたり10枚の画像と仮定)
 白黒多値静止画;超音波検査(各臓器)(200)、他院X線フィルム(70)、蛍光眼底写真(10)、超音波Bモード写真(10)、膀胱鏡(30)
  推定データ量=512x512x8x(200+10+10+30)+1024x1024x8x70 = 約138.9 MB/日
 カラー静止画;病像写真(30)、尿管ファイバースコープ(30)、手術写真(300)、病理写真(80)、眼底写真(150)、眼球スリット写真(100)、TMS角膜形状写真(10)、超音波ドプラー写真(80)、皮膚症状写真(15)、放射線照射記録(20) サーモグラフィー(5)、各種内視鏡(300)、腹腔鏡(20)、血液像(10)、絵画療法(30)
  推定データ量 = 512x512x3x8x1000 = 約6.3 GB
 白黒動画;ICG眼底写真(ビデオ3本)、SLO眼底写真(3本)、脳波(2本)、超音波検査(10)、 患者モニタ(3)、シネアンギオ(フィルム3本)
  推定データ量 = 120分ビデオ 21本 + ロールフィルム3本
 カラー動画;手術映像(ビデオ30本)、術前後映像(10)、超音波カラードプラ
(5本)、脳波(4本)、患者病像(5本)、病巣記録(1)、気管支鏡(3)、消化管内視鏡(10)、患者動作(2)
  推定データ量 = 120分ビデオ 80本
 音声データ;発声・発語(60分テープ2本)
 以上のデータから推定すると院内には多種のアナログ画像(音声)データが存在することが明らかとなった。回答のあった集計分だけで、静止画像の一日発生データ量が約6.5GBに達する。動画像のデータ量推計は今回は行わなかったが、必要情報となる画像量の特定が困難であったからである。診療現場においては、静止画像はカルテに添付、ファイル・棚に物理的に保管、動画・音声データは棚に保管されている現状も明らかになった。診療現場では、これらの保管・検索のためのシステムの開発への要望が予想以上に強いことが判明した。
 
 

3.医療画像収集伝送保管システムの設計

 上記アンケート結果を受け、平成7年度に関西のマルチメディア関連企業とAPACS研究会を発足させ、医療現場における画像データの収集伝送保管システムの開発に着手した。
開発基本方針;収集装置、保管装置をそれぞれクライエント・サーバシステムとしてを構成し、APACS(Analog Picture Archiving and Communication System)と称する。
1)画像収集装置(クライエント);医療現場に設置されるので、大きさ、騒音、発熱、電磁波など人体影響に配慮する(設置型)。マンマシン・インタフェイスを含めインテリジェント機能を有して、操作性を向上させる。災害対応時に出動可能な構造についても考慮する(可搬型)。静止画は高精細度(HDTV規格)、動画は通常の画質(NTSC)を有する。MPEG等による画像圧縮/伸展を行う。
2)伝送装置;LANは100BASE 、TCP/IPを標準とする(設置型)。災害対応のため、ISDN、PHSなど伝送方式の多重化についても検討する(可搬型)。
3)保管検索装置(サーバ):医療画像処理に関するエキスパートシステムを開発し、動画から保管に必要な画像を抽出し保管する。必要に応じMPEGによる画像圧縮/伸展を行う。関係データベースを利用する。
 画像収集、伝送、保管蓄積、検索の処理を概念的に図に示す。
APACS開発の特徴;1)対象は医療現場のアナログ画像であるが、収集にあたってはディジタル映像機器の利用、IEEE1394などディジタルバスを活用し、効率かつ高質に国際標準対応の画像収集方式を開発する。
2)ソフトウエア開発を重視する。とくに、冗長度の高い診療画像情報から目的とする一次画像を抽出するため、音声認識、パターン認識、差分処理、微分処理など前処理技術と医師による認識を学習したエキスパート機能を開発する。また、検索に必要なキーワード自動付与など現場業務を支援する。3)患者IDを既存病院情報システムと共有など、総合医療情報システムのサブシステムとしての機能を有する。
 現在システム開発に着手しており、平成8年度末にプロトタイプ作成、平成9年度から実証実験に入る予定である。

本研究の一部は、通産省大規模災害対応型新診断支援動画情報システムの開発実証事業(平成7、8年度)の補助を受けた。本研究の遂行にあたり、APACS研究会(神戸大学宮本正喜氏、木村成一氏、山崎貞彦氏ほか)での討議を参考にした。


図表

図1、APACSの処理フロー概念

参考文献




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