国立大学附属病院長会議 常置委員会 医療安全管理体制担当校・医療安全管理協議会

 平成26年12月5日(金)国立大学附属病院長会議常置委員会が開催され、その後のプレスセミナーで、国立大学附属病院における医療安全の取り組みを、医療安全管理体制担当校である大阪大学医学部附属病院の金倉讓病院長が発表しました。 概要

 大阪大学は、医療安全管理体制担当校であり医療安全管理協議会事務局及び会長校です。

 プレスセミナーの内容は、国立大学附属病院長会議のホームページを参照してください。
  国立大学附属病院長会議:http://www.univ-hosp.net/~nuh/cgi-bin/detail.cgi?id=99

国立大学附属病院における医療安全への取り組み

プレスセミナー内容
「国立大学附属病院における医療安全への取り組み」について

 国立大学附属病院長会議常置委員会の医療安全管理体制担当校である、大阪大学医学部附属病院病院長から説明をします。
 国立大学附属病院には、医療の質・安全を向上するためのプラットフォームが大きく3つあります。

 1つは、国立大学附属病院長会議の「医療安全管理体制担当校」を中心として実施している、「医療安全・質向上のための相互チェック」です。これは42大学病院が、自己評価および他者評価を通じて、PDSAサイクルを回す取り組みです。
 2つ目は、同じく病院長会議の組織の1つである「医療安全管理協議会」です。これは45大学病院の医療安全の実務者のネットワークです。
 3つ目は、国公私立大学附属病院の職員を対象とした医療安全セミナーです。
 これらの取り組みについて、具体的に紹介します。
 平成11年1月に横浜市立大学附属病院で発生した患者誤認事故をうけ、国立大学医学部附属病院長会議ではただちに、医療事故防止のための安全管理体制の確立に着手し、翌年の平成12年5月には「中間報告」、さらに平成13年6月には「提言」をとりまとめ、公表しました。
 この「中間報告」および「提言」に書かれている内容を、現場で周知・徹底することを目的として平成12年度に開始したのが、「医療事故防止のための相互チェック」です。平成18年度と23年度を除いて、今日まで毎年1回実施しています。
 相互チェックは、「自己チェック」と「重点項目に関する訪問調査」と「ベストプラクティスの共有」から構成されています。
 「自己チェック」は、約300のチェック項目に基づいて、自施設の状況を確認します。訪問調査は、相互チェックのかなめの部分ですが、これは42ある国立大学病院のそれぞれが、別の1(いち)大学病院を訪問し、現場で実際に行われていることを確認、評価します。
 重点項目のテーマと、具体的な評価項目や評価基準は、全国の国立大学病院等の専門家でワーキングを設置して定めています。
 相互チェックの結果、および翌年の「改善期間」における改善状況は、とりまとめて病院長会議に報告します。このように病院長会議のリーダーシップのもと、医療安全のPDSAサイクルを回す機構が相互チェックです。
 訪問調査の実施方法です。

 例えば、平成24年度は、世界的なスタンダードとなっている「WHO手術安全チェックリストの内容に準拠した手術安全の確保」がテーマでしたが、チェックを受ける病院は、チェックを行う病院に対して、事前に、自施設で使用している手術安全チェックリスト等の事前書類を提出します。チェックをする病院は、予め訪問する病院の体制をしっかりと把握したうえで、訪問調査に臨みます。
 これまで訪問調査でチェックしてきた重点項目の一覧です。

 平成13年度の「提言」の中になかった項目として、平成22年度には、「電子カルテ」や「がん化学療法」に関すること、平成24年度には「WHO手術安全チェックリストに準拠した手術安全確保」、また今年度は、「内視鏡治療や血管内治療など多職種から構成されるチームでの、患者さんのリスク評価や情報共有」について実施しています。
 これまでの取り組みを通じて、訪問調査の内容や評価方法等も少しずつ進歩しています。
 実際の訪問調査でのチェックの様子です。

 訪問するメンバーは、病院長や副病院長をはじめ、重点項目の領域の専門家、医療安全部門のスタッフら、5名から10名くらいです。(左上の写真)

 手術安全が重点項目の年には、午前8時には手術室内に入り、手術が終了するまでの一連の流れを現場でチェックしました。青い半そでの服を着た人達が、チェックをしています。今年の血管内治療に関するチェックでは、患者さんへのインタビューも行っています。(右上の写真)

 チェックが終わると、その病院の病院長、副病院長、医療安全関係者、現場の医師や看護師などの前で講評を行い、良かった点、改善すべき点をフィードバックします。(左下の写真)
 相互チェックの成果です。

 例えば、医薬品に関する安全対策として、電子カルテ上で患者さんのアレルギー歴や禁忌医薬品を共有することや、外来化学療法室への医師や看護師の専門家の配置、人工呼吸管理への臨床工学技士の関与等、相互チェックを重ねるごとに改善がみられています。
 また、先ほど来、例にでてきている「手術安全」については、すべての国立大学病院で、手術の3つの大きな局面(麻酔導入前、皮膚切開前、手術室退室前)において、WHOに準拠したチェックリストが使用され、また、訪問調査で観察した事例のほとんどのケースで、手術チームの多職種メンバーが声に出して情報を共有するようになっており、相互チェックは着実に成果を挙げています。
 次に、医療安全管理協議会についてです。

 これは平成14年度に設立され、45の国立大学病院の医療安全の担当者である副病院長、専任リスクマネジャー、事務職員から構成されています。この協議会の目的は、医療安全に関する情報共有、人材育成、教育プログラムの開発、社会への情報発信等です。
 毎年、春と秋の2回、総会を開催し、職種別部会や作業部会も設置し、恒常的な活動を行っています。
 設立当時まず行ったことは、インシデントレポートの報告対象や影響度の分類、また医療安全に関する用語の定義を明確にし、国立大学病院全体で足並みを揃えて、医療安全の重要な情報源であるインシデントレポートの収集を推進しました。
 また、協議会の構成員でメーリングリストを活用し、患者さんの安全を脅かすようなリスク情報をいち早く共有したり、医療安全対策の実際や運用等についても情報交換をしています。
 また、重大事態が発生した際に、現場と病院として適切な対応がとれるよう、患者さんの治療や救命、患者さんや家族への誠実な対応、さらには記者会見を通じた公表やプライバシーの保護等に関して、対応マニュアルを作成しています。
 年2回開催している総会では、ここにありますような重要な課題を検討し、国立大学病院としての適切な対応をとってきました。たとえば、有害事象に関する院内での検証システムの構築、国立大学病院で院内事故調査委員会が設置された場合の「医療安全に関する外部委員」の推薦、新研修医制度が導入された際の「研修医の指導体制:10の提言」、診療関連死の届出に関する院内意思決定等です。
 また、協議会の中に設置している作業部会では、ここにありますような「専任リスクマネジャーや部署リスクマネジャー養成のための教材の開発」、「職員教育の工夫や教材開発」、「患者相談事例収集用のテンプレート開発」、さらには「卒前医学教育における医療安全教育の現状調査」など、国立大学病院全体で利用することができるような教材やシステムづくりを行っています。
 さらに、医療安全に対する科学的なアプローチとして、様々な研究プロジェクトを立ち上げ、積極的に学会発表や論文化を行っています。
 これまでの経過の中で、国立大学病院の医療安全管理体制は充実してきています。
 左の図は協議会構成員数の推移です。設立当時の平成14年度に比べ、構成員数は2倍近くになっており、その中心は若手の医師・歯科医師、および看護師や薬剤師の増加によるものです。
 また、右の図にあるように、専任看護師の複数名体制をとっている大学も26施設になっています。
 協議会設立後12年目にあたる今年度は、第1回医療の質・安全大賞という行事を行い、各大学病院の特徴や強みを生かして行われてきた優れた医療安全活動を共有しました。審査員には、ささえあい医療人権センターコムルの山口理事長や、報道記者の方にもご参加いただき、厳正な審査の結果、ここにありますような賞が16病院に授与されました。

 いずれも、大学病院ならではの難しい課題に対して、院内の職員で連携・協力し、またテクノロジーも活用して医療安全の向上を図ったものです。
 次は、3つめのプラットフォームである国公私立大学附属病院医療安全セミナーです。これは平成13年度に当時の文部省が、病院の医療安全部門に配属された専任リスクマネジャーを教育する目的で始めたものですが、平成16年度からは阪大病院が主催し、対象者を国公私立大学病院の職員に広げて毎年開催しています。

 受講者は年々増え、これまでに約2800人の方が受講しました。また、毎年、大変好評で、最近では大学病院以外の医療機関や、他業界からの参加希望が増えています。
 これは今年度実施したセミナーのトピックスですが、教育学の専門家による「大人の学び」や、航空や鉄道など他産業の取り組み、また新しい安全へのアプローチとして「うまくいっていることから学ぶというレジリエンス・エンジニアリング」など、ユニークな内容が多く盛り込まれています。
 さらに、国際的知見を学習するために、BMJグループが開催している世界最大規模の医療の質・安全学会と契約を結び、プログラムの一部を提供しています。これまでに、石油会社元会長でオランダの国会議員であるウィレムス氏による「安全文化」、カナダ人医師で宇宙飛行士のウィリアムズ氏による「ノンテクニカルスキル」などを紹介しました。
 まとめです。

 これまでの国立大学附属病院における医療安全への取り組みは、医療安全管理体制の充実、医療安全対策の実施、また医療事故への対応等において、着実に成果をあげてきています。
 今後も、国立大学附属病院間のさらなる連携・協力をはかり、医療安全の向上を目指すとともに、国内外に対しても積極的に有用な情報の発信を行っていきたいと考えています。
 そのためには、それぞれの国立大学附属病院において医療安全に対する予算措置を講ずる努力を継続するとともに、国の施策においても、運営費の交付や診療報酬等、予算面での支援を賜りたいと考えております。

平成26年6月15日 NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの会報誌 No.286で、山口育子理事長の記事「医療安全の取り組みを共有する催しに参加して国立大学病院第1回医療の質・安全大賞」により「第1回 医療の質・安全大賞」が紹介されました。
NPO法人ささえあい医療人権センターCOML:http://www.coml.gr.jp/
PDFファイル