放射線の被ばくについて

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放射線の被ばくについて

放射線(X線)被ばくについて

放射線部では、人体に影響があると言われている放射線(X線)を使って検査や治療を行っています。その検査は、患者様が病気やけがの正しい診断を受けるため、また次の治療に役立てていただくために行うものです。したがって、放射線(X線)検査を受ける方が「被ばく」による害をこうむるという概念は除外して下さい。

私たちが使用する放射線(X線)の量は、身体に影響が出ると言われている量よりもはるかに少ない量を使用しています。そして、必要な場所のみに必要最小限のX線量で病気を見つけ正しい診断が下せるように検査を行っていますので、放射線による影響をご心配されることはありません。安心して検査をお受け下さい。

それでもなお、患者様の中には不安をもって検査や治療に臨まれている方々も多くおられると思います。次に、これまでに私たちが患者様から相談を受けた事例を紹介しますので、皆様の不安を解消する一助となれば幸いです。

患者様の疑問に答える

一般撮影
Q1
何度もX線撮影を行っていますが、大丈夫でしょうか?
X線を受けた部位によって身体への影響は異なり、ある線量(しきい線量:mGy)[表1]を越えることにより身体的症状が出てくる可能性があります。通常の撮影で受けるX線の量は、このしきい線量よりはるかに少ない(~10mGy前後)ので、身体的症状が現れてくることはありません[表2]。

表1:感受性が高い組織のしきい線量[mGy]

Tr3 影響 急性被ばく線量
精巣 一時的不妊 150
永久不妊 3500-6000
卵巣 一時的不妊 650-1500
永久不妊 2500-6000
脊髄 造血機能低下 500
水晶体 水晶体の混濁 500-2000
白内障 5000
胎児 胎児奇形 100
重度精神発達遅滞 5000

表2:阪大病院における主なX線撮影とその平均皮膚表面線量[mGy]

検査部位 方向 線量
頭部 正面 1.5
胸部 正面 0.07
側面 0.25
腹部 正面 2.6
頸椎 正面 0.4
胸椎 正面 2.3
側面 2.5
腰椎 正面 1.7
側面 5.6
股関節 正面 0.85
大腿骨 正面 1.1
膝関節 正面 0.18
Q2
子供がX線検査を受けても大丈夫ですか?
身体が成人より小さいので、その分、撮影に必要なX線の量も少なくなります。したがって、皮膚表面線量も小さくなるので、X線による影響を心配する必要はありません。
Q3
乳房撮影(マンモグラフィ)による被ばくの影響はありませんか?
乳房撮影は、乳房のみの非常に限局した撮影なので、身体に影響がでることはありません。X線をあてる場所から50cm離れると、その量は1/20の量に減少します。
Q4
妊娠している時に、X線撮影を行っても胎児への影響はないのでしょうか?
胎児の被ばくが100mGy以下であれば問題はないと疫学的調査で確認されています。通常のX線検査で胎児が受ける量は、その1/20程度に減少します[表3]。また、胎児にX線が直接あたらない限り極端に減少し、胸部撮影での胎児への影響は無視できるほど小さくなっています。

表3:X線撮影時の胎児が受ける線量[mGy]

撮影部位 胎児線量
胸部正面 0.01以下
骨盤正面 1.1
腰椎正面 1.7
腹部正面 1.4
(ICRP Pub87 2000XuQvH
Q3
X線撮影で、将来生まれてくる子供に影響はありませんか?
将来生まれてくる子供への影響を遺伝的影響といいます。これは生殖腺が被ばくした場合に問題となる影響です。生殖腺以外の部位なら、仮にどんなに大量のX線を受けたとしても遺伝的影響が発生する可能性は全くありません。また骨盤撮影等を行って、たとえ生殖腺が撮影範囲に含まれていたとしても、通常の撮影で受けるX線の量は遺伝的に影響を及ぼすと思われる量に遠く及ばないので、将来生まれてくる子供さんへの影響を心配する必要はありません。
Q6
X線撮影で「がん」になりますか?
医療に使用されている通常のX線撮影で、がんの発生が問題となるような量のX線を受けることはありません。
X線CT検査
Q7
CT検査では、どのくらい被ばくするのですか?
主な臓器の被ばく線量は表4に示す通りです。検査を行った部位での各臓器が受ける平均線量(mGy)を示しています。身体への影響については、表1に示すしきい線量(mGy)よりはるかに少ない量なので、症状が現れてくることはありません。

表4:CT検査における主な吸収線量(Shirimptoら. 1991) [mGy]

  水晶体 甲状腺 乳腺 子宮 卵巣 精巣
頭部 50 1.9 0.03      
胸部 0.14 2.3 21 0.06 0.08  
腹部   0.05 0.72 8.0 8.0 0.7
骨盤部     0.03 26 23 1.7
*空欄は0.005mGy未満 (ICRP Pub87より)
Q8
他の病院でCT検査を受けましたが、ここでもCT検査をしても問題ありませんか?
他病院で検査を受けられた後の経過観察や新たな情報を得るために検査が行われることがほとんどです。仮に、短期間に複数回のCT検査を数回受けられても影響が蓄積するわけではありませんので、障害の発生につながることはありません。表4に示す通り、一度のCT検査で身体が被ばくする量は少なく、より有益な診断情報が得られるものと思います。
Q9
定期的(年1回)にCT検査を受けていますが、身体に影響はありませんか?
年1回のCT検査で身体に影響が生じるような線量には到達しません。X線検査程度のX線量では、影響が現れることなく回復するとされています。
それよりも患者様が定期的に検査を受けられて、疾患を早期発見されることの方がはるかに有益です。
Q10
頭部,胸部,腹部を同時に検査すると言われたのですが大丈夫ですか?
近年は、複数部位を同時に撮影できる性能のよい装置が使用されています。同日に複数の部位(全身)を撮影できるため短期間に検査結果が得られます。複数部位を同時に撮影した場合と、分けて撮影した場合での被ばく線量に大きな差はありません。いずれも身体に影響のないレベルです。
Q11
子供がCT検査を受けるのですが、被ばく線量は大丈夫ですか?
表5に示すとおり、子供の放射線への感受性が成人より高いと言われていますが、身体が成人より小さいので、その分、撮影に必要なX線の量も少なくなります。したがって、CT検査でのX線による影響を心配する必要はありません。また、子供さんは将来に渡ってX線検査を受ける機会が増えますが、それによって放射線による影響が発生したという疫学的調査結果はありません。

表5:成人と比べた小児の放射線発がんに対する感受性の程度

白血病 4~5倍
甲状腺がん 2~3倍
乳がん 3倍
(草間朋子: あなたと患者のための放射線防護Q&Aより)
Q12
今後、子供をつくる予定ですが、CT検査をしても大丈夫ですか?
妊娠されていない場合に、放射線が将来の子供に影響するかもしれないと思われているのは生殖腺(精巣、卵巣)の被ばくによる突然変異です。疫学的調査結果から放射線被ばくによる遺伝的影響の発生確率は、ほとんど問題にならないことがわかっています。
Q13
妊娠中にCT検査を受けることになったが、お腹の子供(胎児)は大丈夫ですか?
放射線によって胎児に影響がでるとされる線量(しきい線量)は、100 mGyと言われています。表6に示すように、CT検査を受けてもしきい線量を超えることはありません。100mGyというのは、子供が自然に形態異常を持って生まれる発生率:3 %をわずかに上回ることが疫学的に確認できた値であり、100 mGyを超えると100 %形態異常になるわけではありません。

表6:英国における通常の診断手法から受けるおよその胎児が受ける線量 [mGy]

検査 X& 最大
頭部CT 0.005以下 0.005以下
胸部CT 0.06 0.96
腹部CT 8.0 49
骨盤CT 25 79
(ICRP Pub.84より)
Q14
子供の検査で介助のために一緒に検査室に入室しましたが、問題ありませんか?
CT検査に限らず、X線撮影装置は検査を受ける患者様に対して、必要な部位のみにX線を照射するように作られています。したがって、介助者が受けるのは散乱線(水道の水しぶきのようなもの)であり、直接あたる直接線に比べるとほんのわずかな量になります。したがって、介助の方の放射線による影響はありません。
Q15
CT検査は急激な進歩をしてきたというが、被ばく線量は多くなっているのですか?
現在のX線CT装置は、撮影時間が短くなり、より高精細な画像が得られるようになっています。特にお薬(造影剤)を使った血管と臓器の描出や血流の評価には、複数回の撮影を行い被ばく線量は増加していますが、三次元画像の作成が可能になり病気の診断をより確かなものにしています。新しい装置には、被ばく低減の技術が多く搭載されており、少ない線量(被ばく量)でより品質の高い画像が得られるようになっています。
2回撮影したから、2倍の線量を受けたという単純計算にはなりません。
血管撮影
Q16
CTやMRI,超音波も検査したのに血管撮影もしないといけないのですか?
血管撮影では、直接動脈に入れた細い管(カテーテル)を目的の血管まで進め、そこからお薬(造影剤)を流して撮影します。この撮影により詳細な血液の循環状態や臓器の支配血管,腫瘍の栄養血管などを見きわめることができます。また、現在では腫瘍に対する治療や狭窄した血管を広げたり、弱くなった血管の修復などの治療も外科的手術に代わって行われています。
Q17
検査時間が長くなったときの被ばくは大丈夫でしょうか?
治療を行うときには、検査の内容により、また繰り返し行われることで長時間の検査になり同じ部位が照射されることがあります[表7]。その対応策として、同じ部位に照射する放射線を時間で区切り、照射する部位を変えて治療を続けていくことによって、X線が同じところに大量にあたらないようにしています。

表7:血管撮影の平均皮膚表面線量[mGy]

心臓カテーテル検査(小児科) 幼児(5歳未満) 診断カテーテル 58
p凟%s8q/td> 237
就学児(6-15歳) 診断カテーテル 165
p凟%s8q/td> 447
心臓カテーテル検査(CAG) 診断カテーテル 866
p凟%s8q/td> 3272
頭部血管撮影 術前マッピング 776
コイル塞栓術 2303
腹部血管撮影 術前マッピング 326
経血管的化学塞栓療法 1245
核医学
Q18
放射能を体の中に入れても危なくないのですか?また、体内に残って溜まっていったりしないのですか?
放射性物質は、時間が経つにつれ放射能が減る性質があります。核医学検査では、この減るスピードの早いお薬(放射性物質)を使っていますので、体内に残ることはありません。また、投与するお薬に含まれる放射性物質の量も微量(37~740MBq程度)なので、核医学検査での放射線障害が生じる心配はありません。
例えば、18FDG-PET検査では約3mSv程度の被ばくがあります。身体に影響が出ると言われている100mGyの1/20以下なので全く心配することはありません。
ここで、「mSv」は人体への放射線の影響を評価する値で、「mGy」は照射された放射線が吸収されたエネルギー量を示します。
Q13
つい最近CT検査をしたのですが、普通のCTとPET/CTやSPECT/CTはどう違うのですか?
通常のCT検査は、より細かいところまで見えるように高詳細な撮影をしています。核医学検査で行うCT撮影は、お薬が身体のどこに集まっているかを知るために行っていますので、同時に撮影しないと集まった場所が照合できません。どちらも必要最小限のX線量で撮影を行っていますので、人体に影響はありません。
Q20
検査中、患者のそばにいても大丈夫ですか?
検査中、患者様のそばにいていただいても大丈夫です。核医学検査は放射線を出すお薬を投与して行う検査ですので、患者様ご本人には多少の被ばくを伴いますが、CT等とは異なり機械から放射線が出ていませんので、検査室の中に入っても被ばくする心配はありません。
例えば、骨シンチを行った直後の患者様から1m離れた場所での放射線の量は約3μSv/hです。これは法令で定められている退出基準(家に帰っても良い量)の1/10以下ですので、検査後、そして検査中においても患者様のそばにいていただいても問題ありません。
Q21
検査後は何をしてもいいですか?
核医学検査は放射線を出すお薬を投与して検査を行っていますので、検査中は患者様ご自身の体から放射線が出ています。しかし、病院から退出される頃には、その放射線の量は基準値以下になっていますので、通常に過ごされても問題ありません。
お薬の多くは尿から出ていきますので、医師から止められていない限り、できるだけ水をたくさん飲んでいただくとお薬が早く身体から出て行きます。
ただし、小さな子供さんは大人に比べて放射線の影響を受けやすいので、核医学検査後6時間程度経過するまでは、お子様を長時間抱き締めたり、添い寝したりすることは避けて下さい。
Q22
赤ちゃんがいるのですが、核医学検査後の授乳はどうしたらいいですか?
授乳中の方の検査の可否は、主治医と相談して決めることになっています。もし、検査を受けられた場合は、検査担当医から授乳禁止期間についての説明がありますので、その指示に従ってください。
放射線治療
Q23
どれくらいの量の照射をするのですか?痛かったり熱かったりしますか?
本院での放射線治療で照射する量は1日あたり2Gyが基準です。痛んだ細胞の種類にもよりますが、治療終了まで合計30~70Gyを照射します。
ごくまれに、放射線をあてている時にビリビリ感じるという患者様もおられますが、基本的に放射線が照射されている時は痛くも熱くもありません。
Q24
放射線をあてているところと反対側の皮膚がかゆいのですがなぜでしょうか?
放射線(特にX線・ガンマ線)は人体を透過する性質を持っていますので、照射野の皮膚だけでなく、反対側の皮膚にも少々の放射線の影響が出ます。これらの影響をできる限り減らすために、照射法などに工夫をしていますが、照射することで皮膚が弱くなっているのも事実です。照射野だけでなく、照射野と反対側の皮膚もむやみに掻いたりしないように注意してください。
Q25
放射線をあてることで逆にがんになったりしないのですか?
残念ながら無いとは言い切れません。しかし、放射線治療は、痛んだ細胞のみを消滅させる最適な量の放射線を照射しています。もし、放射線治療を行わずに放っておいた場合、ほぼ確実に痛んだ細胞が増殖し、かつ他のところの細胞も悪くなります。これらのことを天秤にかけ、放射線治療を行った方が患者様にとって有意義であると判断した場合にのみ放射線治療を行っています。
Q26
夫が放射線治療を受けているのですが、一緒に帰っても影響はありませんか?
放射線治療は大きく外部照射と内部照射の2種類に分けられます。外部照射ではリニアックという機械を使い、高エネルギーの放射線を身体の外から照射します。その放射線は患者様の体内に残ることはありません。
一方、内部照射の一種に前立腺や舌に対して放射性物質を身体に埋め込む場合があります。この場合は、患者様の体内から放射線が出ますが、その量は微量(法律で定められた基準:患者様の体表から1m離れた場合に125Iでは1.8μSv/h、198Auでは40.3μSv/h以下)なので、どちらの場合も患者様からの放射線の影響はありません。
Q27
放射線をあてているところ以外に影響は無いのですか?
上記のように、必要な場所に必要量の放射線をあてるのですが、放射線(特にX線)は身体にあたると散乱という現象を起こし、いろんな方向へ散らばります。したがって、放射線をあてる範囲(照射野)のすぐ近くは放射線の影響は避けられません。しかし、その範囲から遠ざかるにつれ散乱した放射線は弱まり消えていきますので、照射野以外で放射線による影響はありません。また、目や骨髄、直腸といった放射線に対して弱い臓器には、影響が出ないよう詳細に計算して放射線をあてます。
Q28
放射線治療をすることで髪の毛は抜けますか?他にどんな影響がありますか?
照射野に頭部が含まれている場合、どうしても髪の毛が抜けてしまいます。治療を開始して1~3週後に抜け始めることが多いですが、一時的なものなので、治療終了後、半年~1年程度で毛が生え始めます。照射野に髪の毛が含まれない場合は、髪が抜けることはありません。
他の副作用としては、皮膚の荒れ、唾液の減少、味覚の低下、下痢、下血等様々な合併症がありますが、ほとんどの症状が治療終了後にピークを迎えます。治療が終わったからといって安心せず、医師の指示を守り、症状が悪化しないようにしてください。
Q29
放射線をあてる必要の無いところを鉛エプロンで防護してくれませんか?
通常のX線撮影は、鉛で覆うと放射線を防ぐことができます。放射線治療で用いている放射線は、X線撮影に比べ100倍程高いエネルギー(10MV)を使っています。高エネルギーの放射線を鉛エプロンなどで覆ってしまうと、逆に被曝量が増えてしまう場合があります。放射線治療では放射線腫瘍医、診療放射線技師、医学物理士が綿密な計画を立て、必要な部分だけに放射線をあてていますので、必要の無いところに放射線はあたりません。
「参考文献」
ICRP Pub.84:妊娠と医療放射線
ICRP Pub.85:IVRにおける放射線障害の回避
ICRP Pub.86:放射線治療患者に対する事故被ばくの予防
ICRP Pub.87:CTにおける患者線量の管理
草間朋子:あなたと患者のための放射線防護Q&A,医療科学社,1996
奈良県放射線技師会:X線検査従事者のための被ばく説明ガイドブック,2007
笹川泰弘,諸澄邦彦:医療被ばく説明マニュアル:患者と家族に理解していただくために,
 日本放射線公衆安全学会
井戸達雄、遠藤啓吾:PET検査Q&A,PET検査Q&A,日本核医学会・PET核医学ワーキンググループ編
 日本核医学会・日本アイソトープ協会,2000
飯沼 武、小西淳二:「核医学検査Q&A」,日本核医学会・ベクレル委員会
 日本核医学会・日本アイソトープ協会,1996
佐々木雅之,桑原康男:核医学検査技術学,南山堂
「参考ホームページ」
日本放射線腫瘍学会 URL: http://www.jastro.jp/