対象疾患説明

Conditions we treat

胸部の疾患
先天性肺気道奇形
(Congenital Pulmonary Airway Malformation:CPAM)

先天性肺気道奇形とは

先天性嚢胞性肺疾患という肺に嚢胞性(液体が入った袋状)の病変を来す疾患の一つで、以前は先天性嚢胞状腺腫様奇形(congenital cystic adenomatoid malformation:CPAM)と呼ばれていました。先天性肺気道奇形とは気管支―肺胞までの組織の一部が嚢胞を形成する病態で、先天性肺気道奇形の病変には正常な肺葉構造がなくガス交換などの機能を持ちませんが、正常肺組織と繋がっているため肺炎の原因となります。肺分画症とは異なり、肺循環系の動脈・静脈を有しています。
先天性肺気道奇形は、胎児期にサイズが変化し、妊娠28週ぐらいまで病変が大きくなり、妊娠28週以降から病変が小さくなることが知られています。

先天性肺気道奇形の種類

嚢胞のサイズにより、マクロシスト型(Macrocyst:>5㎜の大きな嚢胞を有する病変)、マイクロシスト型(Microcyst:<5㎜の小さい嚢胞を有する病変)に分類されます。

原因

先天性肺気道奇形は肺胞上皮の分化の異常により生じますが、近年では遺伝子発現の異常により生じるとも言われています。

発生頻度

先天性肺気道奇形は、1/2000-12000人の割合で生じる先天性嚢胞性肺疾患の内の60%をしめます。

胎児期の超音波所見

赤ちゃんの胸部に、マイクロシスト型では充実性で高輝度の病変を、マクロシスト型では複数の5㎜を超える嚢胞病変を認めます。
胎児超音波検査で病変のサイズと胎児頭囲周囲径から算出した値(CPAM volume ratio:CVR = 腫瘍長径(cm) x 短径(cm) x 高さ(cm) x 0.52 / 頭囲(cm))を求め、胎児水腫のリスクを推測し治療方針を決めます(カットオフ値1.6)。
肺病変の他に、心臓・縦隔の偏移、胸水・胎児水腫の有無、羊水量なども評価します。

  • 正常(心臓は体の中央からやや左にある)
  • Macrocystic CPAM(嚢胞が肺に複数ある、腫瘍のため心臓は右に寄っている)

胎児期の症状

先天性肺気道奇形の多くは無症状で経過します。
一方で、病変が大きい場合、食道を圧排して羊水過多を生じたり、正常肺組織が圧排され肺低形成・肺高血圧を呈したり、心臓が圧排され血液が心臓に戻りにくくなり胎児水腫(胸水、腹水、心嚢液、皮下浮腫の内2つ以上を満たす病態)を生じることがあります。
又、大きなマクロシスト型の病変の中には、急激な液体貯留による増大を認めることがあり、注意が必要です。
胎児水腫では85%以上の胎児死亡率となり、他に胎盤肥厚、胎児右心不全、母体ミラー症候群(母体高血圧、肺浮腫、蛋白尿)などを呈することもあります。

胎児治療

妊娠32週未満でCVR≧1.6の病変もしくは胎児水腫傾向もしくは胎児水腫を来した場合に胎児治療を行います。

①母体ステロイド治療

CVR≧1.6のマイクロシスト型の病変に対しては、病変の縮小効果を期待して母体にステロイド投与(筋肉注射、24時間毎、計2回)を行います。母体ステロイド治療は、病変縮小率85%、胎児水腫縮小率87%、生存率77%1-3)と効果が報告されています。

②嚢胞内穿刺ドレナージ・胸腔羊水シャント術

CVR≧1.6のマクロシスト型の病変に対しては、嚢胞内穿刺ドレナージ、もしくは嚢胞内の胸腔―羊水シャント術を行います。胎児超音波検査を行いながら、胎児に麻酔を行い、母体腹壁から穿刺し胎児の病変内嚢胞のドレナージを行うか、病変内嚢胞と羊水腔を結ぶシャントチューブを挿入します。生存率が82%まで改善する4)と報告されています。

③胎児手術による肺葉切除術

上記治療が奏功せず胎児水腫が進行する場合、子宮開放胎児手術による肺葉切除術が適応となりますが、周術期死亡率が50%とリスクの高い治療法5)です。

分娩時期・方法

多くは、病変が小さく無症状なので、妊娠37週以降に母体の状態に合った分娩方法(主には自然経腟分娩)で分娩を行います。
一方、病変が大きく生後に呼吸困難が予想される場合は、妊娠37週頃に計画的な誘発分娩や帝王切開術を行います。
胎児治療に反応せず胎児水腫が進行する場合は、妊娠32週以降であれば早期に帝王切開術を行います。

生後の症状・治療

多くは、病変が小さく生まれたあと無症状で経過しますが、無治療の場合約85%が有症状になる事、約4%が胸膜肺芽腫を呈する事のリスクを考慮し、生後3-12か月頃に開胸もしくは胸腔鏡で予防的肺葉切除術を行います。
一方、生まれた後に呼吸困難を認める病変が大きな場合は、生まれた後に呼吸サポートや人工呼吸管理を行います。マクロシスト型の場合、陽圧換気により緊張性気胸のリスクがあるので注意が必要です。
呼吸困難が続く場合には、新生児期の開胸による肺葉切除術を行います。

参考文献

  1. Effect of maternal betamethasone administration on prenatal congenital cystic adenomatoid malformation growth and fetal survival. Peranteau WH et al. Fetal Diagn Ther 2007; 22:365-371
  2. High-risk fetal congenital pulmonary airway malformations have a variable response to steroids. Morris LM et al. J Pediatr Surg 2009; 44(1):60-5
  3. Prenatal steroids for microcystic congenital cystic adenomatoid malformations. Curran PF et al. J Pediatr Surg 2010; 45(1):145-50
  4. Thoracoamniotic Shunts in Macrocystic Lung Lesions: Case Series and Review of the Literature. Litwinska M et al. Fetal Diagn Ther 2017; 41:179-183
  5. Microcystic congenital pulmonary airway malformation with hydrops fetalis: steroids vs open fetal resection. Loh KC et al. J Pediatr Surg 2012; 47(1):36-9