対象疾患説明

Conditions we treat

双胎の疾患
無心体双胎
(Twin reversed arterial perfusion sequence:TRAP sequence)

無心体双胎とは

無心体双胎は、双子が1つだけの胎盤しかもたない場合(一絨毛膜性双胎)だけに起こります。双子のうち、片方の児(無心体)は心臓構造がなく、正常に生きている児から血流をもらっている状態です。そのため、正常の児はポンプ児とも呼ばれます。ポンプ児は、自分と無心体の両方へ血液を送り出しているため、ポンプ児の心臓には多くの負担がかかってしまい、ポンプ児が心不全になってしまう危険があります。

原因

詳細はまだわかっていませんが、双子の間に異常な血管のつながりがあることが原因と考えられています。

発生頻度

全妊娠の1/35000、一絨毛膜双胎の約1%と言われています参考文献1

胎児期の診断

無心体双胎の診断には、超音波検査と胎児心臓エコー検査を用います。
胎児超音波検査にて、羊水量、無心体の大きさ、無心体の血流の有無、特に臍帯動脈から逆行性の動脈波形を確認します。特に、無心体の大きさが、ポンプ児の体重の75%以上の場合、ポンプ児の死亡率は95%まで上昇することもわかっています。

胎児期の症状

生存児を無治療で経過観察した場合、死亡率は50-70%と報告されています参考文献2,3
無心体は一絨毛膜双胎の一児死亡の状態ですが、血流が持続しているために無心体が増大したり動いたりする所見を認めます。
一方で、生存児は胎盤上の吻合血管介して自分の心臓から拍出された血流が無心体児に流入するため、生存児の心臓に負荷がかかり高拍出性心不全、羊水過多、胎児水腫(胸水、腹水、心嚢液、皮下浮腫などの出現)を呈することがあります。羊水過多により、前期破水や早産のリスクも高くなります。

胎児治療

生存児に羊水過多、血流ドップラー異常、胎児水腫、無心体の著名な増大を認めたとき、生存児の救命を目的として胎児治療が行われます。

①ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:以下RFA)

お母さんに腰椎麻酔を行い、電極のついた針を母体腹部から穿刺し、無心体の血流を焼灼することにより、ポンプ児から無心体への血流を遮断します。
上記治療は本邦では2019年3月から保険適応となりました。
本邦でのラジオ波焼灼術の生存率は85-88%と報告されています参考文献4,5

②その他

双子が、1つの胎盤と、1つの羊水腔を共有している場合には、双子の臍帯が絡まないようにすることも必要になります。その場合には、胎児鏡で確認しながら、臍帯を焼灼して切断する方法(バイポーラー臍帯焼灼切断術)を行ったり、妊娠週数の早い段階でレーザーなどを用いて健常児から無心体への血流を遮断する方法も行われています。

分娩時期・方法

妊娠37週以降に母体の状態に合った分娩方法(主には自然経腟分娩)で分娩を行います。

生後の症状・治療

生存児が無症状であれば通常の新生児管理を行いますが、心不全や胎児水腫を呈していた場合はその程度に応じた治療を行います。

参考文献

  1. Gillim DL et al. Obstet Gynecol 1953;2:647-53
  2. James WH. Teratology. 1977;16:211–262.
  3. Napolitani FD et al. Am J Obstet Gynecol. 1960;80:582–589.
  4. Prenat Diagn 2016;36(5):437-43
  5. Fetal Diagn Ther 2016;40(2):110-5