対象疾患説明

Conditions we treat

染色体の疾患
21トリソミー(ダウン症候群)

21トリソミー(ダウン症候群)とは

ヒトの染色体は、22対の常染色体(1~22番染色体)と1対の性染色体(X、Y染色体)の合計46本からなります。この染色体が1本過剰に存在し47本となった状態をトリソミーといいます。
ヒトでは13,18,21番染色体のトリソミーのみが出生可能であり、その中でも最も頻度が高いのが21トリソミー、すなわちダウン症候群です。

英国のダウン医師がはじめて報告したことから名付けられました(アップ・ダウンのダウンではありません)。

原因

21トリソミーには標準型(トリソミー型)、転座型、モザイク型などがありますが、その多くを占めるのが21番染色体1本すべてが過剰となっている標準型です。標準型は、受精卵ができる前の卵子あるいは精子が成熟する過程において、染色体がうまく分かれず1本過剰になることで起こります。この染色体不分離は、母親の加齢とともに頻度が増加します。

発生頻度

700人に1人の割合で発症します。

胎児期の超音波所見

妊娠10-12週以降に超音波検査で見つかります。
赤ちゃんの頸のむくみ(胎児項部浮腫、nuchal translucency: NT肥厚)、鼻が低い、耳が小さい、手足が短いなどの所見に加えて、心疾患や消化管疾患等の合併症が見られればダウン症を含めた染色体異常を疑います。確定診断には羊水検査が必要となります。

胎児期の症状

21トリソミーの受精卵の多くが流産となり、出生に至るのは約20~30%に過ぎません。超音波検査で推定される胎児の体重増加が不良であったり(胎児発育不全)、胎児の全身がむくんだり(胎児水腫)、胸腔・腹腔内に胸水・腹水が溜まることもあります。また血液を作る機能に異常があると肝腫大が起こることもあります(一過性骨髄異常増殖症)。

胎児治療

現時点でダウン症候群に対する胎児治療はありません。胎児の胸腔内に胸水が溜まっている場合は、胸腔-羊水腔シャント術によって胸水を除去する治療法が行われることもあります。

分娩時期・方法

予定日近くの自然分娩を目指します。ただし胎児発育不全や胎児水腫の症状が強くなってきた場合は早めの娩出を行うこともあります。

生後の症状・治療

ダウン症候群では、先天性心疾患(房室中隔欠損症、心室中隔欠損症など、約50%に合併)や消化管異常(十二指腸閉鎖症、鎖肛、Hirschsprung病など、約12-20%に合併)、造血異常(一過性骨髄異常増殖症など、約10%に合併)、成長障害、難聴、知的発達遅滞など体の多くの部分が影響を受けます。染色体異常に対する根本的治療法はないため、各合併症に対する治療が行われます。

出生後5歳までの死亡率は一般より高く、生命予後は合併症に左右されますが、必ずしもすべての合併症が起きるわけではありません。また医学の進歩とともに平均余命は急激に伸び、近年では60歳に達しています。

ダウン症児の知的発達については、乳児期から学童期以降にかけてゆっくりと上昇し、とくに言葉を発するのに時間がかかります。精神年齢は平均するとだいたい6歳レベルと言われますが、早期療育や教育上の配慮、運動発達指導、食育指導などの取組みにより、精神年齢が9歳レベルにまで達し、20歳以降も知的能力がしっかりと維持されるケースも見られるなど、教育環境の影響は極めて大きいと考えられます。

ご家族への支援

18トリソミー症候群のあるお子さんのご家族は、生まれる前からたくさんの説明を聞いて、生まれてからも合併症の治療などで、不安や焦りを感じることがあります。退院してご自宅で過ごすことを目標に、医療ソーシャルワーカーが中心となって、医療的なケアのサポート(かかりつけ医、連携医療施設、訪問看護、訪問リハビリテーション、保健師、療育施設などとの連携)、心理的なサポート(心理士との面談、家族会や他のご家族の紹介)、経済的なサポート(福祉制度利用など)といった準備をすすめていきます。

18トリソミーと13トリソミーのお子さんの親を対象とした北米のアンケート調査では、お子さんを幸せな存在と考え(99%)、その子どもの存在により親自身の人生が豊かになり(98%)、夫婦関係(68%)やきょうだい(82%)によい影響を与えていると回答していました。お子さんがご家族にとって大切な存在であると感じられるよう、支援していきたいと考えています。