対象疾患説明

Conditions we treat

胸部の疾患
肺分画症
(Bronchopulmonary sequestration:BPS)

肺分画症とは

先天性嚢胞性肺疾患という肺に嚢胞性(液体が入った袋状)の病変を来す疾患の一つです。
肺分画症とは、肺動脈から栄養される正常肺組織の他に存在する大動脈から栄養される異常な肺組織のことを指します。

この分画肺は、正常な肺葉構造がないのでガス交換などの正常な機能を持ちません。
胎児期に病変サイズが変化し、妊娠28週ぐらいまで病変が大きくなり、妊娠28週以降から病変が小さくなることが知られています。

肺分画症の種類

肺分画症は、肺葉内肺分画症(75%)と肺葉外肺分画症(25%)の二つに分類され、どちらも機能していない無機能肺です。

①肺葉内肺分画症

肺葉内肺分画症の肺組織は、正常の肺組織と同じ胸膜に包まれていて、肺循環系の栄養動脈と肺静脈系のドレナージ静脈と繋がっています。肺葉内肺分画症の肺組織は、正常肺組織と接しているので肺炎になるリスクがあります。

②肺葉外肺分画症

肺葉外肺分画症の肺組織は、正常肺組織と離れて独立した胸膜に包まれていて、体循環系の栄養動脈と体循環系のドレナージ静脈と繋がっています。正常肺組織と完全に離れているので、肺炎になるリスクは少ないです。

原因

肺分画症は、正常な肺芽(肺の元となる芽)の尾側に過剰な肺芽が出来ることが原因で生じます。

発生頻度

肺分画症は、1/2000-12000人の割合で生じる先天性嚢胞性肺疾患の内の5-8%をしめます。

胎児期の超音波所見

赤ちゃんの胸部に、充実性で高輝度の病変を認めます。カラードップラー超音波検査では、病変が体循環から血液供給を受けている像が描出されます。
超音波検査で病変のサイズと胎児頭囲周囲径から算出した値(CPAM volume ratio:CVR= 腫瘍長径(cm) x 短径(cm) x 高さ(cm) x 0.52 / 頭囲(cm))を求め、胎児水腫のリスクを推測し治療方針を決めます(カットオフ値0.75)。

  • 嚢胞が左胸腔にあり心臓が右に寄っている

胎児期の症状

肺分画症の多くは無症状で経過します。
一方で、肺葉内肺分画症の約30%にあたる大きな肺葉内肺分画症では、病変が大きいために食道を圧排して羊水過多を生じたり、正常肺組織が圧排され肺低形成・肺高血圧を呈したり、心臓が圧排され血液が心臓に戻りにくくなり胎児水腫(胸水、腹水、心嚢液、皮下浮腫の内2つ以上を満たす病態)を生じることがあります。
又、病変の大きい肺葉外肺分画症の一部は、急に胸水貯留や胎児水腫を来すことがあります。
胎児水腫では85%以上の胎児死亡率となり、他に胎盤肥厚、胎児右心不全、母体ミラー症候群(母体高血圧、肺浮腫、蛋白尿)などを呈することもあります。

胎児治療

胎児水腫のリスクがあるもしくは胎児水腫を来した大きな病変や大量の胸水貯留を認める場合に胎児治療を行います。

①母体ステロイド治療

CVR≧0.75の大きな肺分画症や胎児水腫を呈する肺分画症に対しては、病変の縮小効果を期待してお母さんにステロイド投与(筋肉注射、24時間毎、計2回)を行います。

②胸水穿刺・胸腔羊水シャント術

大量の胸水貯留に関しては、胸水穿刺ドレナージ、もしくは胸腔―羊水シャント術を行います。赤ちゃんの超音波検査を行いながら、赤ちゃんに麻酔を行い、お母さんの腹壁から穿刺し胎児胸水ドレナージを行うか、赤ちゃんの胸腔内と羊水腔を結ぶシャントチューブを挿入します1-3)。

分娩時期・方法

多くは、病変が小さく無症状なので、妊娠37週以降にお母さんの状態に合った分娩方法(主には自然経腟分娩)で分娩を行います。
一方、病変が大きく生後に呼吸困難が予想される場合は、計画的な誘発分娩や帝王切開術を行います。
胎児治療に反応せず胎児水腫が進行する場合は、妊娠30-32週以降であれば早期に帝王切開術を行います。

生後の症状・治療

多くは、病変が小さく生まれたあと無症状で経過しますが、肺炎に罹患するリスクがあるため、遠隔期に開胸もしくは胸腔鏡で予防的肺葉切除術を行います。
肺葉外肺分画症の場合は、手術を行わずに経過観察することもあります。

一方、呼吸困難を認める病変が大きな場合は、生まれた後に呼吸サポートや人工呼吸管理を行います。胸水を認める場合、胸腔ドレーン挿入を行います。呼吸困難が続く場合には、新生児期の開胸による分画肺切除術もしくは肺葉切除術を行います。

参考文献

  1. Antenatal diagnosis of pulmonary sequestration: a review. Dolkart LA et al. Obstet Gynecol Surv 1992;47:515-20
  2. Antenatal diagnosis and treatment of fetal hydrops secondary to pulmonary extralobar sequestration. R. Favre et al. Ultrasound Obstet Gynecol 1994;4:335-38
  3. Retrospective study of prenatal diagnosed pulmonary sequestration. Zhang et al. Pediatr Surg Int 2014;30(1):47-53.