対象疾患説明

Conditions we treat

胸部の疾患
先天性横隔膜ヘルニア
(Congenital diaphragmatic hernia:CDH)

先天性横隔膜ヘルニアとは

先天性横隔膜ヘルニアとは、胸腔と腹腔を隔てる横隔膜の一部が欠損しており、腹腔内の臓器が胸腔内に脱出し、正常肺が圧排され十分に成長できない病態です。

その為、肺低形成、肺高血圧、心室機能低下などを合併します。

先天性横隔膜ヘルニアの種類

先天性横隔膜ヘルニアの部位により、ボッホダレックヘルニア(Bochdalek hernia:横隔膜の後外側に欠損孔がある:80-90%)、モーガニヘルニア(Morgagni hernia:右前中央側に欠損孔がある)やラリーヘルニア(Larrey hernia:左前中央側に欠損孔がある)(10-20%)に分類されます。

原因

横隔膜の発生異常により生じると言われています。

発生頻度

1-4/10000人の割合で生じます。

胎児期の超音波所見

赤ちゃんの胸部に胃、腸、肝臓など腹部の臓器がみられます。腹腔内の脱出臓器により、肺や心臓が圧排されています。
胎児超音波検査で、肺の大きさの評価である横隔膜ヘルニアと逆側の肺の面積と胎児頭囲周囲径から算出した値(o/e LHR (lung to head ratio))、肝臓の挙上の有無、胃泡の位置、合併奇形の有無などから、横隔膜ヘルニアの重症度を推測し(下図)治療方針を決めます。
又、赤ちゃんの成長の程度、羊水量、他の合併奇形の有無なども評価します。

胎児期の症状

先天性横隔膜ヘルニアの多くは無症状で経過します。
一方で10%の確率で子宮内死亡が生じます。

胎児治療

先天性横隔膜ヘルニアの重症例では、生後の蘇生治療を行っても救命困難な場合があり、胎児期に肺の成熟を促す目的で胎児鏡下バルーン気管閉塞術(Fetoscopic Endoluminal Tracheal Occlusion:FETO)を行うことがあります。

胎児鏡下バルーン気管閉塞術
(Fetoscopic Endoluminal Tracheal Occlusion:FETO)

妊娠27週0日~31週6日の間に、お母さんに麻酔をした後、お母さんの腹壁から4㎜の胎児鏡を子宮内に挿入し、赤ちゃんの気管内にバルーンを膨らませて留置します。これにより気管が閉塞され、肺から産生される肺胞液が肺内に貯留し、肺が拡張します。
妊娠34週0日~34週6日の間に、超音波ガイド下もしくは胎児鏡下に気管内バルーンを抜去します。現在上記治療は、国立成育医療研究センターで行っています。
重症例にFETOを行った場合、生後治療のみでは20%の生存率が50%まで改善したと報告されていますが、一方で早期破水や妊娠34週未満での早産のリスクが上昇するとも報告されており2,3)、術後には慎重な妊娠管理が必要になります。

分娩時期・方法

多くは、胎児期安全に管理ができるので、肺が成熟した妊娠37週以降の分娩を行います。出生後の新生児治療をスムーズに行うため、計画的な誘発分娩(経腟分娩)や帝王切開術を行います。

生後の症状・治療

生まれた後、速やかに挿管して呼吸管理を行い、鎮静をしながらジェントルベンチレーション(Gentle ventilation)という肺の後遺症を避ける人工呼吸器条件で呼吸状態を維持します。その他、補液、輸血、昇圧剤や一酸化窒素などを用いて心機能のサポートを行いながら循環状態を維持します。
呼吸状態、血圧などの循環状態などが安定したら、開腹手術か胸腔鏡手術による横隔膜修復術を行います。
逆に、呼吸状態や循環状態が悪化する場合には、体外型膜型人工肺(ECMO)を用いた治療を行う場合があります。

参考文献

  1. Results of fetal endoscopic tracheal occlusion for congenital diaphragmatic hernia and the set up of the randomized controlled TOTAL trial. Dekoninck P et al. Early Human Development 2011;87(9):619-24
  2. Severe diaphragmatic hernia treated by fetal endoscopic tracheal occlusion. Jani JC et al. Ultrasound Obstet Gynecol 2009;34:304-10.
  3. A randomized controlled trial of fetal endoscopic tracheal occlusion versus postnatal management of severe isolated congenital diaphragmatic hernia. Ruano R et al. Ultrasound Obstet Gynecol 2012;39:20-27.