対象疾患説明
Conditions we treat胸部の疾患
腹部の疾患
双胎の疾患
泌尿生殖の疾患
染色体の疾患
その他の疾患
仙尾部奇形腫
(Sacrococcygeal teratoma:SCT)
仙尾部奇形腫とは
奇形腫とは胚細胞腫瘍(のちに精子や卵子となる原始生殖細胞が腫瘍化したもの)と言われる小児固形腫瘍の一つで、胎児奇形腫の好発部位の一つである仙尾部にできる奇形腫を仙尾部奇形腫と呼びます。
仙尾部奇形腫は、組織学的に分化した組織からなる成熟奇形腫か未熟な胎児性組織を含む中間型の未熟奇形腫です。ときに再発を認めることもありますが、基本的には予後の良い良性腫瘍です。
しかし、胎児診断症例の中には妊娠中期に腫瘍内出血や腫瘍破裂を生じ腫瘍が急速に大きくなり、高心拍出性心不全・胎児水腫・母体ミラー症候群・子宮内死亡を呈することがあり注意が必要です。
胎児期に診断された仙尾部奇形腫は、新生児期に診断された仙尾部奇形腫に比べ、死亡率が三倍高く約15-35%の死亡率と報告されています。
仙尾部奇形腫の種類
腫瘍の内容により嚢胞型(腫瘍90%以上が嚢胞成分を示すもの)・充実型(腫瘍90%以上が充実成分を示すもの)・混合型(上記以外)に分類されます。
又、腫瘍の発育形態による分類も用いられています。
原因
尾骨の先端にある多分化能を有するヘンセン氏結節(Hensen’node)の細胞の異常増殖により生じると言われています。様々な組織(骨・歯・毛髪・脂肪など)が腫瘍の中に含まれます。
発生頻度
仙尾部奇形腫は、1/27000-40000人の割合で生じます。男女比1:4と女児に多く見られます。
胎児期の超音波所見
胎児のおしりに腫瘤像を認めます。通常病変は充実成分と液性成分が混在し不均一で、血流が豊富です。腫瘤は骨盤の外や腹腔内に進展したり、脊椎の中に入り込むこともあります。Type4のように腫瘍が骨盤内のみに存在する場合には、診断に至るまで時間がかかることがあります。
胎児期の症状
仙尾部奇形腫の多くは無症状で経過します。
一方で、血流豊富で急激に増大する充実成分の多い腫瘍では、重症化しやすく、高心拍出性心不全・胎児水腫・母体ミラー症候群・腫瘍内出血・腫瘍破裂・羊水過多から早産・子宮内死亡を呈することがあります。
胎児治療
重症化が予想される場合、胎児治療を行う事があります。
①母体ステロイド投与、帝王切開
妊娠28週以降であれば母体にステロイド投与をを行い、早期に帝王切開で娩出します。
②EXIT(ex utero intrapartum treatment)
妊娠28週以降で、母体が安定している場合(母体ミラー症候群、胎盤肥厚、陣痛初来がない場合)、EXIT(ex utero intrapartum treatment:帝王切開時に臍帯を切断するまえに胎児治療を行うこと)による腫瘍切除術を行う事もあります。
③子宮開放手術
妊娠28週未満に心不全症状がみられた場合、子宮開放手術による腫瘍部分切除術を行う事もあります。
分娩時期・方法
病変が小さく無症状の場合は、妊娠37週以降に分娩を行います。病変が小さい場合は経腟分娩も可能ですが、腫瘍が5㎝以上ある場合、腫瘍破裂や出血を防ぐために帝王切開を進めることもあります。
一方、病変が大きく胎児水腫が進行する場合は、妊娠28週以降であれば早期に帝王切開術を行います。
生後の症状・治療
胎児治療が必要なく無症状の場合は、分娩後全身状態が安定したことを確認し、新生児期に手術を行います。手術では、腫瘍の栄養血管である正中仙骨動脈を結紮し、再発・悪性化予防のため尾骨を含め腫瘍を完全に切除します。Type Iでは臀部の傷から手術を行いますが、Type II―IVなど骨盤内や後腹膜に腫瘍が進展している場合では、臀部と腹部の二か所の傷から手術を行います。
胎児治療が必要だった場合、子宮開放手術やEXITで体外の腫瘍を部分切除されていますが、再発を予防するために、生まれた後にもう一度手術を行い尾骨や残存腫瘍を切除します。